外来
WEB 2019年-最近の報告【医療関係者向け】
WEBでの動脈瘤塞栓術について、2017年にこの脳卒中センターニュースNO.2017-2 WEBで御紹介したが,その後もWEBについて多くの知見が報告されるようになった。2019年1月に開催されたABC-WIN seminarでもWEBに関して8演題が発表され、未だ欧州を中心としているが、カナダ、米国からも報告が行われるようになった。本邦ではまだ動きが見えないが、米国にも広がりつつあることを考慮すると、今後広く使われるようになると推測される。また今後WEBの改良とともに、コイル、ステントとの使い分けをはじめ、破裂動脈瘤のWEB治療、小型動脈瘤のWEB治療など気になるところである。
そこで、ここ数年間に報告された代表的と思われる6論文と2019年のABC-WIN seminarで発表された8報告のなかから興味のある2報告を選んで表を作成し、計8個の図(Fig.1~8)にまとめた。
1.WEBCAST, WEBCAST2, WEB-IT、WEBmeta-analysis
まず初期の代表的な報告である、WEBCAST1), WEBCAST22), WEB-IT3、4)を各Fig.上の表の上方3行にまとめた。これらの臨床試験はいずれも対象症例が未破裂動脈瘤(93-94%)であり、ほぼ未破裂動脈瘤に対するWEB塞栓術と考えてよい。最も古い代表的な臨床試験は、DL(ダブルレイヤーのWEB)を使用したWEBCAST1)報告(2016年)である。対象動脈瘤サイズは平均8.2mmと大きく、平均ネックサイズも5.6mmでワイドネックの分岐部動脈瘤である。WEBの開発の初期の目的は、コイルが苦手としているワイドネックで比較的大きい動脈瘤に対する治療である。DLはサイズが大きく、使用されたカテーテルも0.031インチであったが、その後SL(シングルレイヤー)SLS(シングルレイヤー球形)が作られまたワイヤーの径や構造も改良され、2015年から0.027、0,021インチ、そして2017年からは0.017インチのマイクロカテーテル(VIAというマイクロカテーテル)を介して留置できるタイプが臨床に使われるようになった。
これら3論文に加え、2015年10月から2017年12月までのWEBの報告をメタ解析したTauら6)の報告があり、これを表の第4行目にまとめた。未破裂、比較的大型、ワイドネック、分岐部動脈瘤を対象としていた、いわば第一世代のWEBの未破裂動脈瘤の治療成績のまとめと考えている。動脈瘤の部位別では中大脳動脈37%、前交通動脈瘤24.6%、脳底動脈瘤22.2%、内頚動脈瘤7.9%、動脈瘤長径が10mmより大きいものが35~96%、ネックが4mm以上のものが75~100%である。
WEBを使用したワイドネック動脈瘤の塞栓成績は、合併症が少なく、12ヵ月前後のフォロー中でも問題が少なく、再治療率も低くて良好な成績と思う。
2.WEB 17
2019年のABC-WIN seminar で0.017インチのマイクロカテーテルで使用できるWEB 17 の臨床報告5)がBerlisからあった。これを表の第5行目にまとめた。WEB 17はまだ予備的な発表であるが対象となった動脈瘤サイズは平均4.4㎜、ネック中央値2.9㎜と小さい。また破裂動脈瘤も21%と多く、WEBの小型化とともに、小型の未破裂ならびに破裂動脈瘤への応用が今後進んでゆくと考えている。
3.破裂動脈瘤に対するWEB治療
WEBの開発はワイドネックの未破裂分岐部動脈瘤を主たる治療対象として進んでいったが、小さい動脈瘤や、破裂動脈瘤にも有効であるか、ということも知りたいところである。WEB17に今後、期待がかかるが、WEB17が使用される以前に、破裂動脈瘤のWEB治療について、すでに2017年にvan Roojiらが報告している7)。これについては以前の脳卒中センターニュースNO.2017-2 WEBで紹介し、また今回の表の第6行目にまとめた。大変優れた臨床成績である。
また最近の報告として、2019年ABC-WIN seminarで英国の多施設での破裂動脈瘤のWEB治療結果の報告Acute WEBがLaminから発表された8)。表の第7行目にまとめた。70例の報告でadequate occlusion (WEB特有の判定方法で完全閉塞と頚部残存を合計したもの)93.4%、再治療5.8%であった。
complicationは術中7(6の間違いかわからないが発表時は7としてあった)症例で、内訳は1例:他動脈瘤をコイルで治療中にそれが破裂したがWEBとは無関係、1例:WEBがparent arteryにはみだしstentで処理、1例:動脈瘤に入る前にVIA(WEB用のマイクロカテーテル)内で離脱、VIA,WEBを回収し新たなVIAでWEBを動脈瘤内に留置したが無症候性、2例:血栓形成を認めたがReoproで治療し後遺症なし、1例:parent artery閉塞による脳虚血があった。
また術後に1例:8病日に末梢の脳梗塞があり原因はSAHか心房細動かどちらかだが後遺症あり、1例:2か月後に水頭症でシャント治療した。
死亡は2例でうち1例:血栓化動脈瘤のコイル塞栓術後再発しこれをWEBで治療したが部分閉塞に終わり、(何らかの原因で)死亡、1例:SAHが原因で死亡。
まだ予備的な試験であること、急性期動脈瘤の治療のためSAH自体が治療結果に強く影響することなどがあり、治療成績については今後十分な検討が行わなければ正当な評価はできないが、現時点では良好な成績であると考えられる。
4.治療時間
治療時間について、WEBを一個入れるだけなので治療時間が極めて短いことが特徴のようである。平均透視時間がわずか30分や27分と報告されており、大変印象的である。
5.抗凝固, 抗血小板薬
WEB出現当初はステント併用コイル塞栓術などと比べて抗血小板薬の投与が少なくなると期待されていた。Fig4.に術前から術後フォローの状況をまとめた。一般的に抗血小板薬使用に関してのエビデンスについて、臨床試験の背景因子が多いこと、薬効の個人差、国による認可使用薬剤の違い、測定方法の正確さなど問題が多々あり、エビデンスを作ることが困難なことが多い。
ワイドネックの未破裂動脈瘤を主たる対象としたWEBCAST, WEBCAST2,WEB-ITでは、術中から術後早期にSAPT ,DAPTを使用していることが多い。しかし留置後、結構早期に投薬中止になる症例が多いようである。
なお破裂動脈瘤についてのvan Roojiらの報告では術中のヘパリン使用以外に抗血小板薬の投与は意図的に行われていない。大変印象的である。術中の血栓性合併症が100例中9例あり、この際にtirofibanを6例に使用しているが100例の母集団から考えると使用頻度が極めて少ない。急性期の治療に抗血小板薬を使用しなくてよいのであれば、非常に有利であるが、まだ急性期破裂動脈瘤のWEB治療の報告数が少なく今後の知見の積み重ねが必要である。
以上最近のWEBの報告についてまとめてみた、今回のまとめで、ワイドネック分岐部動脈瘤に対して治療成績が良いこと、急性期動脈瘤、小型動脈瘤にも十分使用できそうであることや、それらに付け加え、治療時間が短いこと、抗血小板薬の使用頻度を少なくできる可能性のあることなどが明瞭になってきた。
なお、大きな動脈瘤内に留置したWEBが術後フォロー中に変形していく、あるいは再開通するなどの現象も指摘されており、このことについては改めて別のニュースでまとめてみたいと思っている。
【引用文献・資料】
- Pierot L., Costalat V., Moret J., et al. Safety and efficacy of aneurysm treatment with WEB : results of the WEBCAST study. J.Neurosurg 124: 1250-1256, 2016
- Pierot L., Gubucz I., Buhk., et al. Safety and efficacy of aneurysm treatment with the WEB: Results of the WEBCAST 2 study. AJNR 38: 1151-55 Jun 2017
- Fiorella D., Molyneux A., Coon A., et al. Demographic, procedural and 30-day safety results from the WEB intra-saccular therapy study (WEB-IT). J Neurointerv Surg 9 : 1191-1196 2017
- Arthur AS., Molyneux A., Coon AL., et al. The safety and effectiveness of the Woven EndoBridg (WEB) system for the treatment of wide-necked bifurcation aneurysms: final 12-month results of the pivotal WEB intrasaccular therapy (WEB-IT) study. J Neurointervent Surg 0: 1-7 2019
- Berlis A., Weber W. et Fischer S. Is less more? Preliminary results of WEB17 vs WEB21 treated cerebral aneurysms at two centers in Germany. ABC-WIN seminar 15 January 2019
- Tau N., Sadeh-Gonik U., Aulangner G., et al. The Woben EndoBridge (WEB) for endovascular therapy of intracranial aneurysms : Update of a systematic review with meta-analysis. Clinical Neurology and Neursurgery 166: 110-115 2018
- van Rooij SBT., van Rooij WJ., Peluso JP., et al. WEB treatment of ruptured intracranial aneurysms: a single-center cohort of 100 patients.
AJNR 38: 2282-87 2017 - Lamin S., Patankar T., Thomas A., et al. Acute WEB audit: UK A national audit of the WEB device in the treatment of ruptured aneurysms.
ABC-WIN seminar 15 January 2019
文責 滝 和郎