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脳血管攣縮のステント治療:Lumenate, LOVIT

くも膜下出血後の脳血管攣縮に対して塩酸パパべリン、塩酸ファスジルの局所動注やバルーンカテーテルによる血管形成術が行われている。バルーンによる形成術は塩酸パパべリンなどの薬剤と比較すると平滑筋細胞の収縮力を機械的に破壊するので効果時間は長く保たれる。このバルーンカテーテルによる血管形成術のかわりに、ステントで血管形成を行おうという試みが行われている。

脳血管攣縮では血管平滑筋細胞の変性・壊死がみられ、血管壁細胞外基質と平滑筋細胞との結合部の変性、平滑筋細胞内の細胞骨格の変性・変質などが攣縮の主原因と考えられている。一方、血管平滑筋細胞は血管が過剰に進展され、一定の閾値をこえると、もはや収縮しなくなる。「降伏点とでも呼ぶのでしょうか、こういう現象が知られていて、バルーンによる血管形成術の根拠ともなっている。」

Bhogal(※1)らは脳血管攣縮の治療でニモジピンを注入した症例で、たまたまM2に血栓性閉塞の合併症が起こったため、その部の血栓をsolitaire(4×20mm)血栓回収用ステントで回収した。この際のステントの展開で攣縮血管が拡張した。拡張は、その後のフォローの72時間後でも持続していた。このことよりステントでもバルーン拡張と同様の効果が認められることに気が付いた。彼らはこの症例を始めとして、数例をまとめて報告を行っている(※1)。

ステントはバルーンよりも拡張圧が低いので組織を破裂させる危険性が低いこと、操作性が良好なこと、小径の血管にも応用できること、拡張中にも血流が維持できることなどの利点がある。このことに彼らは着目し、新たなステントの開発を行うようになった(Fig1,2)。それらについて2018年のABC-WIN セミナーでPederzani(※2)、Soderman(※3)から2つの発表があった。

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血管壁にかかる内圧に対抗するものは血管壁の成分でコラーゲン、エラスチン、平滑筋細胞である。血管攣縮時にはコラーゲン、エラスチンはあまり変性がないが、平滑筋細胞はその対抗力を変性・変調させる。

前述したように、平滑筋細胞の収縮力を傷害するには正常径の80%以上の血管径伸展があればよいことが実験上示されているとのことである(Fig.3)。

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Fig4.は 血管内圧(縦軸)と血管径(横軸)の変化についての、平滑筋、コラーゲン、エラスチンの3要素の関りを示した図である。左グラフが正常中大脳動脈(自然拡張径3.5mm程度か?)、右グラフが、血管攣縮で50%の狭窄を来している中大脳動脈である。左グラフでは血管平滑筋は4mm以上に拡張されても収縮力を失わず、その際の内圧力は非常に高くなってゆくがエラスチン層が主に支えている。
しかし、(右グラフ)血管攣縮時は、平滑筋層の変性に伴って、平滑筋が収縮を開始ならびに終了する時の、血管径は横軸の左方、小径の方へ移動する(細破線)。この終了点の移動に伴い、80%以上の平滑筋進展を行うには血管径を3mm弱に拡張すればよく、この時点で平滑筋収縮の降伏点に達する(Fig.4,5)。

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理論的には有効な血管拡張を行うには、攣縮が50%の、最大自然拡張径3.5mm程度?の中大脳動脈ではFig,6のように径が3mm以上に拡張しその拡張圧力が20KPa(150mmHg程度)以上あればよいことになる。これで平滑筋の80%以上の拡張が達成され、平滑筋は収縮しなくなる。

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この結果から新たな血管攣縮治療専用のステントの開発が始まっている(Fig.7)。
新たなステントの名前はLumenate Intraluminal Deviceと呼ばれている。攣縮血管径、部位によって至適な拡張力が得られるように、平滑筋の収縮降伏点を少し超えるように設計されるものと推測している。

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Söderman, BhogalらはこのLumenateステントの臨床治験を開始するようで、試験名をLumenate Observational Vasospasm Interventional Trial (LOVIT)としている。2019年のABC-WINで経過を発表する予定としている。
バルーンのように大きな拡張力を必要とせず、操作性がよく、また治療時の血流を遮断することがないのは大きなメリットである。今後の発展に期待したい。

【参考文献】

(※1)
Bhogal P.,Loh Y., Brouwer P., Andersson T., Söderman M.: Treatment of cerebral vasospasm with self-expandable retrievable stents: proof of concept
J NeuroIntervent Surg 2017;9:52-59

(※2)
Pederzani G., Bhogal P., Grystan A., Loh Y., Brouwer P.A., Andersson T., Söderman M., Gundiah N. Robertson A., Watton P.N.: A new hypothesis on the pathophysiology of cerebral vasospasm and its consequences on potential treatment strategies.
ABC-WIN seminar 14-19 January 2018

(※3)
Söderman M.,Bhogal P.: Lumenate Observational Vasospasm Interventional Trial (LOVIT) ABC-WIN seminar 14-19 January 2018

文責 滝 和郎