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脳動脈瘤・血管内治療用の最新器具 (ABC-WIN 2016より)(医療関係者向け)

脳動脈瘤・血管内治療用の最新器具

2016年1月17日から22日に開催されたABC-WIN Seminar (Val dI’sere, France)で、脳動脈瘤の血管内治療に関して、いくつかの新しい器具とそれを用いた臨床試験のデータが発表された。医療器具の許認可の遅い本邦との差を強く感じた。印象に残ったものを、かいつまんで紹介する。 なお会場で見聞したことの再現なので細かいところでの誤りはご容赦願いたい。
発表時に会場で撮影させていただいたスライドを主としてPower Point で加工し図・Figureとして使用させていただいている。

PulseRider パルスライダー (Fig.1)

まず動脈瘤コイル塞栓術の補助器具として、本邦ではNeuroform, Enterpriseなどのステント器具がよく用いられるが、欠点として正常血管内に異物である金属が留置される。金属量を少なくしてかつ、広頚部の動脈瘤のコイル塞栓術に応用しようと、以前Tripspanというものが発表されていたが、これの延長線上にある器具である。
傘の骨を裏返したような形状の器具で、動脈瘤頚部の親血管側に留置する。
PulseRiderは脳底動脈分岐部、内頚動脈終末部の広頚部の動脈瘤に応用が期待されている6
PulseRiderはあくまでコイル塞栓術の補助器具である5
コイル支持性が既存のステント型より有効なのか、抗血栓性はどうなのか、今後の症例の積み重ねが必要である。

Contour コントール (Fig. 2-4)

Lobotesis K.の報告で動脈瘤の頚部に金属製のお椀型メッシュのContourを留置して、瘤内への血流を低減させる方法である2。 Contour は(以前の脳卒中ニュースでも取り上げた瘤内塞栓用機材)WEB(Fig. 9,10)の上半分を取り去ったような形状である。瘤内の頚部側に留置して、動脈瘤と親血管を遮断する壁を作るような器具である。
この形状ではガイドワイヤーから切り離すと、瘤内側に移動あるいは落ち込むように思われるが、その質問に対して、Lobotesisは摩擦力だけであるが、たとえ血流があっても移動しないと回答していた。
この移動しないというところが、どの動脈瘤にも応用できるのか、どの程度完成されているのか疑問が残るが、3症例を提示していた。
前交通動脈瘤をContourで治療した症例をFig 4に示した。
この症例ではうまくContourが留置されており、正直なところ、筆者は驚きました。動脈瘤破裂部は瘤の先端部分にあることが多いので、先端部に器具を充てることが少なく、また瘤壁にあまり影響を与えずに塞栓治療ができるので、術中破裂が少なるかもしれない。
またコイルを使わないので、短時間で治療できるように期待される。今後の発展を期待したい。

Sphere スフィア、スフェア(Fig 5-8)

Peach TM. 等はいわゆるFlow diverter (FD)の一部を楕円形に切り抜いたような形状の動脈瘤頚部被覆器具を開発している3。Sphereと呼ばれている。分岐部動脈瘤用で側枝型の動脈瘤への留置はむつかしいかもしれない。
Sphere使用の塞栓術では、瘤内にデバイスをいれることがないので、術中破裂をかなり低減できる可能性がある。
先端の円形のリングを末梢側の血管内に留置し、ついで展開すると細かいシダの葉脈状の立体構造になる金属線がでてきて、これが動脈瘤開口部を親動脈側から被覆するように展開する(Fig 5)。
この部分がflow diverterの役割をする。ついで最終のリング状の柄がでてきて親動脈内に固定される。この状態で切り離しがおこなわれる。
最初と最後のリングは血管壁に密着し、アンカーのような役割をするようである。動脈瘤の頚部面積に対する金属占有率(被覆率)は46%で金属長は3-8メートルである。動脈瘤の頚部は個々の症例によっていろいろな形状をしているので、恐らく、それらの特徴をいくつかの代表的な形状群にわけて、数種類の形状を作成していく必要が今後あるのではと推測している(Fig. 6)。
この金属被覆量でどの程度、血流を阻止できるか、現在使用されているFlow diverter(FD)と比較するためのコンピューターシミュレーションを行っている。6個の動脈瘤をモデルとして、Sphereを入れる前後での瘤内のwall shear stress (WSS)を計測しWSSの低下程度を測定している(Fig. 7)。
そして既存のSilkというFDとの比較を発表しておりSilkと同等あるいは若干低い血流減少を計測している。
結論で、Sphereは適正な血流減少(30-70%)が得られたという。ほとんどの動脈瘤でWSS頂点値が正常WSS(3-5Pa)範囲内に減少した。瘤内に塞栓器具を入れずに治療できる可能性がある。
Silk、PEDと同等か少し低い50-70%の血流減少効果があるし、これらのFlow Diverterと比較すると親血管内に留置されるデバイス部分がほとんどないので、内皮細胞による被覆が速いと思われる。また側枝を閉塞しない利点がある。
ということでこれから動物実験が始まるという。期待される器具であるが、将来臨床試験が行われるのであれば、術者が意図したとおりの位置にSphere留置が行えるのかなどの操作性を含め治療結果がまたれる。
また展開したSphereは、位置が悪い時などに、マイクロカテーテル内に容易に回収できるのか、あるいは、できなくて展開したままガイディングカテーテル内に回収するのか、今回の見聞の範囲ではわからなかった。今後の情報が待たれる。

WEB, WEBCAST2 ウェブ、ウェッブ(Fig. 9-18)

WEBこれは2014年のABC-WIN Seminarで最初に見聞した。離脱型バルーンの再来かと一瞬考えたが、自己拡張型の金属籠(ケージ)であり、バルーンと比較すると、瘤壁に密着しているため再開通や、WEB deviceの移動がないようである。しかし必ずしも頚部が完全に覆われるわけではないので、それほど発展しないのではと思っていたが、今回のABC-WIN Seminarでは9演題ほどの発表が行われたので、こんなに良くつかわれているのは、臨床成績がいいのかもしれないと思ってWEBの臨床試験であるWEBCAST2を取り上げた5
WEBには3種類が出ている。WEBの底部(中枢側)の部分のケージが2重になっているものがDual layer (DL型)でシングルのものがsingle layer (SL) 、ケージがより球形になっているのがsingle layer sphere (SLS) と呼ばれている(Fig. 9.10)。
WEBを使用した大きな臨床試験であるWEB CASTはすでにJournal of Neurosurgery4に発表されているし、その他CLARITY、CCT, HELPS, MAPSなどの臨床試験の結果が発表されている(Fig.12)。
これらの結果をご覧になっておられる方も多いと思う。今回の2016年のABC―WINでの発表はWEBCAST2の結果であった。
組み入れの条件はFig.12に示したが破裂、未破裂の両方の動脈瘤が含まれている。WEBCASTとWEBCAST2の違いは、前者はWEBのDLの臨床試験であり後者はWEBのSL,SLSの臨床試験である。
DLの方がより塞栓効果が高いと思われるが、操作性はSLのほうがよさそうである。塞栓程度の画像診断評価としてFig.13を見ていただきたいが、コイル後の画像評価Raymondの分類によく似ている。30日後と6か月後の結果の比較表がFig.14に示されている。
6か月後の動脈瘤残存はWEBCASTで14.6%、WEBCAST2では20.4%であった。Morbidityは各々 0%, 2%, Mortality は各々4.7%, 2.0%であった。WEBCAST2の結論としてSL, SLSでもDLと同じような結果が出たとしている。
ということでさらに多くの臨床試験が組まれていると報告し、WEB-IT、CLARYSが近い将来、報告されてくるという。これからのWEBの展開に興味がもたれた。

WOST (Fig.18-19)

WEBは1個で動脈瘤を詰めてしまうので、サイズを選ぶことが大変重要になってくる。
大きすぎても、小さすぎてもよくない。適当なサイズを予測することが重要な過程となる。また選択したWEBの留置後の動脈瘤内での位置や形状、さらに壁に対する圧力を知っておくことが重要になってくる。 このためコンピューターシミュレーションで予測できれば大変便利である。そこでWOSTというシミュレーションプログラムが紹介された(Fig. 18-19)
確かにWEB使用時にはサイズ選びが大変らしく、このようなシミュレーションが効果を発揮すれば、大変便利であろう。

Medina メディナ (Fig. 20-28)

動脈瘤内に留置するコイルの発展したもの。通常の塞栓用コイルは線状であり、血流を阻止する力は弱い。
Medinaではコイルに花弁状の金属メッシュ片を取り付けてある7
軸となっているコイルをカテーテル先端から展開するとメッシュ片は組み合わさって球形になり、ちょうどボールの外側の壁を形成するようになる(Fig. 20,21)。
メッシュには血流を阻止する力が強く、フローダイバータ~の役割をする。また視認性もあるようだが、花弁状メッシュを取り付けてあるコイルによりさらに視認性が高くなっている。フレーム用とフィリング用に使い分けられるようである。
若干固いようで、triaxialのカテーテルが必要なことが多くまたMedina展開操作時にマイクロカテーテルを安定させるためにバルーンの支持を必要とすることが3回あったという。マイクロカテーテルは0.021インチを使用する。
彼らの発表では、破裂4個、未破裂10個の13症例14個の動脈瘤が治療された。治療時間は平均36分で極めて短時間である。
4症例で1-2個のMedinaを留置することで完全あるいはほぼ完全に瘤内循環を止めることができた。前交通動脈瘤と末梢の前大脳動脈瘤の症例を図に示した(Fig.22-25)。
2個の動脈瘤(9mm,5mm)では、1個のMedinaを使用した。初期経験では、瘤内に血流が無くなっているにも関わらず、3-5個のコイルを留置した(Fig. 26)。
これはMedina使用初期の経験であるので完全な塞栓を目指しコンパクションが起こらないようにという意図で行った。追跡結果では1個の動脈瘤で2mmの動脈瘤頚部の再開通、10㎜の動脈瘤でMedinaのコンパクションが認められた。
それ以外の12個の動脈瘤では完全に安定した閉塞が得られた。前交通動脈瘤の急性期治療後48時間で親動脈に一過性の血栓形成を認めアスピリン75mgの投与で血栓は消失した。
Medinaでは広頚部の動脈瘤の治療を行うことが多いので、著者らはアスピリンの投与を薦めている。位置決めのために、何回も再挿入を躊躇することなく行うという。
今後中・長期の動脈瘤閉塞効果について評価してゆくとしている。コイルを何個も入れるより、一回で済むことも期待され、将来役に立ちそうな器具と思われる。

引用文献・発表)

  1. Costalat V. et al.: Simulation Now ready for Clinical Practice; Experience with PED and WEB software: 17-22 January 2016, ABC-WIN Seminar: Val d’Isere France
  2. Lobotesis K.: Contour Neurovascular System TM : A novel aneurysm embolization technology: 17-22 January 2016, ABC-WIN Seminar: Val d’Isere France
  3. Peach TW. , et al.,: The ‘Sphere’: A Dedicated Bifurcation Aneurysm Flow-Diverter Device: 17-22 January 2016 ABC-WIN Seminar, Val d’Isere France
  4. Pierot L, et al.: Safety and efficacy of aneurysm treatment with WEB: results of the WEBCAST study: Journal of Neurosurgery posted online on September 18, 2015
  5. Pierot L, et al.: WEBCAST2: 17-22 ABC-WIN Seminar 2016, Val d’Isere France
  6. Spiotta AM., et al.: Inititial experience with the PusleRider for the treatment of bifurcation aneuryms: report of first cases in the USA.: J Neurointerv. Surg. 2016 Feb; 8(2): 186-9
  7. Sourour N., et al.: Medina® devices in the treatment of wide neck intracranial aneurysms: single center preliminary experiences: 17-22 January 2016 ABC-WIN Seminar, Val d’Isere France

文責 滝 和郎

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