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「糖尿病治療薬の安全性を皆で考える会2019」を開催しました
●『どのように安全に薬剤を使うか』は喫緊の課題
生の声を交わす場を多く設け、知見を共有していく
「糖尿病治療薬の安全性を皆で考える会2019」(共催:下京西部医師会、康生会武田病院、小野薬品工業株式会社)が3月14日、下京区で開かれました。当日は、医師、薬剤師、看護師など多くの医療従事者が集まり、熱心に意見交換を行いました。
開会にあたり、康生会武田病院の武田純院長は、「糖尿病治療薬は非常にラインナップが豊富になり、使い分けはもちろんのこと、安全性を考える上で非常に複雑な状況というのが現実ではないでしょうか。対象となる患者さんの高齢化は加速度的に進んでおり、罹病歴が長くなると随伴疾患・合併症も多様になります。『どのように安全に薬剤を使うか』は喫緊の課題であり、本日はこの点をテーマとさせて頂きました」と開催の意義を強調しました。
続いて武田院長は、「私共のような基幹病院と地域の医師会の先生方が、生の声を交わせる場を数多く設けていくことが大事と考えており、忌憚のない意見を交わしたいと思っています。本日はどうぞ宜しくお願いします」と挨拶しました。
●PMDAのビッグデータを分析した
SGLT2阻害薬の副作用と特徴を解説
第1部は武田院長が座長となり、京都薬科大学の栄田敏之教授(薬物動態学分野)による特別講演「薬物動態額の知識を利活用した新規糖尿病治療薬の副作用マネジメント」が行われました。
栄田教授は、これまでの糖尿病治療薬『DPP-4阻害薬』と新規糖尿病治療薬である『SGLT2阻害薬』を比較し、「有効性はSGLT2阻害薬が優れるものの安全性は劣る。代表的なDPP-4阻害薬3剤は1000人に投与すると1件の副作用が起こる程度であるが、SGLT2阻害薬は安全とされる3剤を使った場合でも、500人に使えば1件が起こる」とPMDA(医薬品医療機器総合機構)のビッグデータを分析した結果を披露。副作用の内容については、「尿路・性器感染、脱水、頻尿・多尿であり、これらをマネジメントできればその差は埋まるかも知れない。皮膚障害も薬を選べば問題にならない」と処方する医師側で対応できることを説明しました。
続いて栄田教授はSGLT2阻害薬のプレイオトロピック(多面的)効果である体重低下、血圧低下、トリグリセリド低下、尿酸値低下、タンパク尿低下、抗炎症作用に注目し、「心臓・腎臓に対して非常に良い結果になるのではないかと期待されています」とSGLT2阻害薬の特徴を説明。そして対象患者さんについて、「このSGLT2阻害薬は食事指導を遵守できる患者さんに向いています。何故かと言えばお腹が減るからです。その分おにぎり一個でも食べたらだめなので、きちっと先生方のご指導を守れるような人」と解説すると、参加された方の多くが大きく頷いていました。
●SGLT2阻害薬の多面的効果
肝酵素低下・繊維化マーカー低下の事例を発表
続いて第2部では、「症例から考える、安全性を考慮した糖尿病治療とは?」と題しディスカッションを開催。武田院長が引き続き座長となり、熱田晴彦院長(熱田内科クリニック)、米田紘子部長(康生会武田病院糖尿病内科)がパネリストとして事例を紹介。コメンテーターとして、馬杉治郎院長(ますぎクリニック)、栄田敏之教授、梶山靜夫院長(梶山内科クリニック)が登壇し、議論を交わしました。
熱田院長は、同院での状況を分析し「SGLT2阻害薬各製品の使い分けですが、実臨床では有意差を感じにくいです。使いやすさの観点では、用量調節・合剤の有無を鑑みています。先程、効果の確認についてご意見のあった合剤については、それぞれ試してみて『相性が良さそうで効果が認められた場合』は合剤に切り替えています。副作用は、先ほどのご発表の通りで、頻尿、尿路感染症、皮膚症状、消化器症状がありました」と説明しました。
続いて熱田院長は、期待されるSGLT2阻害薬の多面的効果として、同院で『ダパグリフロジン』を服用している、肝機能障害を有し脂肪肝を有する15例(45歳~78歳)の経過を紹介。「服用後6ヵ月経過でHbA1cは平均0.82%低下し、肝酵素低下と繊維化マーカー低下を認めました。『脂肪肝→NAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)→NASH(非アルコール性脂肪肝炎)に至る経過』は不可逆的なものとして考えられていますが、肝組織をとって調べている訳ではありませんが、改善の傾向を示す結果となりました」と説明し、「組織学的検討は一層必要であるものの、治療の一翼を担うものとして期待される」と発表をまとめました。
●アンプテーション2例を発表
早めの処置、専門医との連携、診療科を超えた連携へ
次に登壇した米田部長は、遭遇した2種類の阻害薬の副作用について焦点を絞り、DPP-4阻害薬における水疱性類天疱瘡を発症した1例(87歳女性)。SGLT2阻害薬における下肢壊疽の急速進行で下肢のアンプテーション(切断)に至った2例(49歳男性、43歳男性)について発表しました。
米田部長は後半の2例について、「いずれもアンプテーションに至るほどの症例ではなかったのですが、受傷してから比較的急速に壊疽(えそ)が進行しました。その間もきちっと服薬はされていたので、当該薬剤との関係性があるのではないかと考えています」との考えを説明しました。
この発表に対し、コメンテーターの馬杉院長は、「別の会ですが、『心臓に対し虚血にしたとき、この薬剤を投与していくと心筋が死ぬ割合が増える』との報告があり、これと今回の発表がとても似ていると感じました。関係があるのかと自身の考えを切り替えているところです」と述べました。
栄田教授は、「今回は壊疽の進行が早かったため、おそらく関係があるだろうと言えますが、通常の進行は遅い。ですから薬との直接関係の解釈は困難であり、事例を蓄積しても『直接の因果関係は不明』になると思います」と述べました。
梶山院長は、年末に壊疽を1例経験したことを説明し、「第一日赤さんに送ったところ、血流障害を丁寧に診られ、血流が改善したことでアンプタ(アンプテーション)の位置が予想よりずっと下になりました。発表症例の血流状態はいかがでしたか」と血流障害について注目。この質問に対し米田部長は、「ABI(足関節上腕血圧比)は正常でした。打撲後の出血・腫張に対し自身でテーピングしたことで、進行をより早めたのだと思います」と説明しました。
武田院長は、「比較的、報告された症例は若い。高齢者にもっとあっても良いのではないかとも感じます。今後、発症リスクは色々な角度から検討されていくのでしょうが、ご指摘の通り、症例は蓄積されにくい側面もあるようです。個々の医師がこうした可能性を念頭に置きながら、早めに気づき、専門医との連携、診療科を超えての連携が必要になってくると思います」と語りました。
閉会にあたり、下京西部医師会の小笠原宏行副会長(小笠原クリニック院長)は、自身の専門が消化器であることを説明しながら「糖尿病が専門でない我々にとっても非常に分かりやすい内容でした。SGLT2阻害薬については、脂肪肝に効くが、それでNASHが減るかどうかが最も気になります」と語りました。そして、本日の発表・ディスカッションを振り返りながら、「大変、活発な意見を頂き、ありがとうございました。この後も意見交換会でさらに議論を深めていただければ」と締め括りました。