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令和5年3月11日京都糖尿病医会 下西地域学習会を開催しました。
多彩な演題で「アフターコロナの糖尿病医療連携」を考える。
京都糖尿病医会の下西地域学習会が3月11日、対面(康生会武田病院外来棟3階会議室)とWEBによるハイブリッド方式で開催されました。
テーマとなったのは「アフターコロナの糖尿病医療連携」です。当日は同院の医師とコメディカルによる多くの演題が用意され、多面的なアプローチで議論を深めました。
司会は康生会武田病院内分泌糖尿病内科の米田紘子部長です。冒頭挨拶で米田部長は、「京都糖尿病医会の地域学習会は3年前に企画されたものの、コロナウイルス感染症の拡大でやむなく延期となっていました。ようやく感染も落ち着きつつあり、社会的に新しい段階に入りつつあります。こうしたなか、ようやく本会が開催できることとなりました。是非、皆様の日々の診療にお役立ていただければ幸いです」と語りました。また、同院糖尿病チームについて「新しいスタッフも加わり、さらに充実したチーム医療を展開してまいります」と説明しました。
第1部の「外来診療に役立つ目からうろこの患者教育 part1」では、まず西垣美沙薬剤師が「新しい糖尿病治療薬」と題し、コロナ禍時期に発売された新しいGLP-1受容体作動薬を中心に、その特徴や使用にあたってのポイントを説明しました。
西垣薬剤師は、2020年発売のオゼンピック(皮下注)、そして2021年発売のリベルサス錠(経口薬)の2つのセマグルチド製剤を取り上げ、その特徴と有効性を解説しました。さらに、この注射剤から経口剤の切り替えについて、「時期や用量設定をどうしたらいいか、実は明確な基準は定められていません。注射剤の半減期は1週間ほどですが、内服に切り替える時期や用量は医師の判断とされています」とし、日本糖尿病学会が定義するGLP-1製剤切り替え時の注意点として「維持量で投与を開始した際の胃腸障害の頻度は不明であり、慎重に経過を観察すること」など複数のポイントを説明しました。
続いて、同院のフットケアチームを代表し白川直子看護師が、「足病変の処置」と題し講演しました。白川看護師は、「当院外来では現在、京都府糖尿病療養指導士が11名、日本糖尿病療養指導士6名 フットケア研修修了者が5名在籍しています。2022年1月から2023年1月までに、外来でフットケアを受けた患者さんは284名、病棟患者さんが15名、透析患者さんが10名です。その中で下肢潰瘍発生患者さんは6名おられました」と体制・状況紹介。さらに看護師が足浴を行うことの利点として、細かく足を観察するチャンスが得られる、足の手入れの具体的な方法を理解してもらいやすいなど7点を説明しました。
さらに、足病変のハイリスク患者の特徴を説明したうえで2型糖尿病・DM歴20年以上の症例を3例あげ、「在宅ケアでの多職種関与は、虚血や感染の診断・治療精度、履物による免荷改善、疼痛やQOL改善につながります。糖尿病内科医、皮膚科医、整形外科医、形成外科医、循環器内科医、血管外科医、放射線科医、理学療法士などが関与するチーム形成が重要です」と集学的チーム医療の重要性を強調しました。
次に草場玲奈健康運動療法士が「運動療法 久しぶりの運動開始注意点」と題し講演しました。草場健康運動指導士は、コロナウイルス感染症拡大により、外出や活動が制限され、身体活動量が減少、感染することで廃用症候群になるリスクが増大することを説明。そのうえで、「肥満や筋力低下の状態で、いきなり過度な運動をしてしまうと、転倒や膝痛や腰痛などの怪我の恐れ、心拍数や血圧の上昇、不整脈など自律神経の乱れ、低血糖などのリスクがあります。運動をはじめる前に患者さんが、動きやすい服装、正しい靴の選択、水分をしっかり摂れているのか注意をして頂きたいです」と注意点を紹介しました。
また具体的な運動指導として、「同程度の運動量とされる『20分間、歩いて下さい』と『2000歩を歩いて下さい』を比較すると、これは2000歩と患者さんに伝える方が運動の継続率が良いとの研究結果があります。また、歩数計を装着するだけで1日の歩数が約2500歩増えるとの研究もあります」と目標設定の重要性を強調。さらに、大腿四頭筋を鍛える『椅子からの立ち上がり』や『スクワット』、腓腹筋を鍛える『カーフレイズ』、体幹筋群を鍛える『バランス運動』を実演動画で解説しました。
第2部は「『食べる』から考える糖尿病の薬物療法 ~DPP-IV阻害薬、ビグアナイドに焦点を当てて~」と題し、武田純院長による講演が行われました。
武田院長は、我が国の食事エネルギーと栄養素の変遷についての調査結果を披露し、「総熱量は1946年で1903Kcal。直近は2019年のデータでこれも1903kcal。飽食の時代と言われながらアベレージは大きく変わっていません」と意外な実態を紹介しました。
続いて、「1946年当時、摂取する炭水化物比率は80.6%。非常に高炭水化物であったにも関わらず、先ほど説明のありました運動量の違いはあったかも知れませんが、『肥満』『糖尿病』は少なかったのです。逆に脂質は非常に大きなものとなっています」とし、1946年当時7.0%だった脂質が2009年では29.5%にもなっていることを強調しました。
その後、薬物治療のターゲットは食後血糖の上昇であること、食物繊維を摂ると血糖値は食後だけでなく、空腹時も下がるとの研究を紹介。「実は食物繊維は空腹時の血中GLP-1を上昇させ、この効果は16時間ほど続いていることが明らかにされました。腸内細菌は、食物繊維から一部、短鎖脂肪酸を作ることが可能です。短鎖脂肪酸の受容体がある細胞とGLP-1を作る細胞は同じであることが分かっています。短鎖脂肪酸のプロピオン酸でこの細胞を刺激すると、GLP-1がしっかり分泌します。従って、夜間寝るときにこのGLP-1を保護してあげれば、空腹時血糖値は下がります。実際、朝1回のDPP-IV阻害薬、朝晩に飲むDPP-IV阻害薬を比較すると、朝の空腹時血糖が有意に低くなるとの報告が多くの施設から出されています」と解説しました。
さらに武田院長は、穀物・果物・野菜による2型糖尿病予防のメタ解析データを披露し、「果物や野菜での優位はなく、穀物はしっかりと有意になっています。果物や野菜の食物繊維の摂取量は穀物に対し非常に少なく、やはり量を接種することが重要なのです」と説明。 「和食は非常に多くの素材から食物繊維を摂ることが可能です。これにプラスしてDPP-IV阻害薬、そしてメトホルミンを使うことが非常に効率的な『食』と『薬』の連携ではないかと思います」と講演をむすびました。
第3部の「外来診療に役立つ目からうろこの患者教育 part2」では、筒井詩織看護師が「病棟看護師より入院中の患者様への指導」と題し講演しました。
筒井看護師は、『糖尿病パンフレット指導』『糖尿病に関してのDVD鑑賞の促しと振り返り』『自己血糖測定の手技や清潔操作の指導』『自己でのインスリン注射投与の手技や清潔操作の指導』『集団教育指導』の5項目について解説しました。
パンフレット指導については、それぞれの患者さん専用のパンフレットを作成することに加え、認知機能の低下がみられる患者さんの指導にあたり、ご家族向けに 食事やシックデイ、フットケア、その他の生活で必要な指導を行っています」と取り組みを紹介。とくに教育入院では、認知症もしくは年相応の認知機能で糖尿病について全てを理解できない患者さんが多い状況を説明し、「そのような患者さんでも退院後も糖尿病について理解が得られるよう、『その人に合わせた指導』を行っています」と説明しました。
続いて渡部愛管理栄養士が「高齢者への栄養指導について」と題し講演しました。 渡部管理栄養士は、高齢の糖尿病患者について、「低栄養になると筋肉のもととなるたんぱく質の摂取も不足するため、筋肉量や骨量が低下。サルコペニアを発症しやすく転倒や骨折のリスクが高くなります。そのため、食事療法では過栄養だけでなく低栄養・サルコペニアを考慮して指導を行っています」と説明。『買い物に行く事が出来る』『家族等が料理が出来る』など、患者さんの背景に応じた指導を行うためのYes/Noフローチャートを紹介しました。
また渡部管理栄養士は、具体的な指導例として「ご自身、ご家族本人ともに食事の準備が難しい場合は、宅配食サービスについて紹介しています。3食のうち1食や2食だけでもバランスのよいメニューが食べられます。飽きない程度に始めることも可能です」とQ&A形式で4例を紹介しました。
次に木原葵管理栄養士が「CKD対策、糖尿病性腎症における食事指導について」と題し講演しました。木原管理栄養士は、糖尿病性腎症の栄養指導について、「第3期の食事療法は、第2期より厳格なコントロールが必要となってきます。血糖のコントロールのみでは腎症の進行を止めることが困難であることから、たんぱく質制限や必要に応じてカリウム制限も行います。また、ステージの3期のaとbとでは、たんぱく質の制限量とカリウムの制限量が大きく異なるため、主治医からの指示量を細かく確認したうえで指導を行うようにしています」と説明しました。
また指導介入の課題として、「厳格な制限を行うことが、食欲不振、低栄養を招き、健康寿命を短縮してしまうことが課題に挙げられます。多くの高齢者に関しては、たんぱく質の制限を現体重あたり1.0g/kg程度にするなど制限を緩和し主治医からの指示量を細かく確認したうえで、必要なエネルギー量を確保することを重視しています。短期ではなく介入を継続していくことで、日々変わっていく患者さんの状態に応じたフォローが出来るようにしています」と説明。あまり厳格な指導を行うのではなく、継続可能な範囲から指導を行うこと、患者さんやご家族が前向きに治療に取り組めるよう助言・支援を行うことの重要性などを強調しました。
閉会挨拶で米田部長は、学習会の参加者、関係各位に謝意を述べ、「これからも先生方の診療の一助となるよう、私達もさらに努力してまいります」と締めくくりました。