Iru miru 健康通信 山科武田ラクトクリニック 所長 田巻 俊一 「ブロークンハート」
2024/06/28 メディア 武田病院グループ
※医師やスタッフの肩書き/氏名は掲載時点でのものであり、現在は変わっている可能性があります。
山科武田ラクトクリニック 所長 田巻 俊一
「ブロークンハート
~あなたの心(臓)が壊れないように~」
強い精神的ストレスを原因とする心臓疾患「ブロークンハート症候群」をご存じでしょうか?「ストレス心筋症」、あるいは突然発症する胸の痛みや息苦しさ、心電図の変化、心臓の壁運動異常が急性冠症候群(急性心筋梗塞)に酷似しますが、冠動脈に有意狭窄は無く、左室心尖部の収縮不全が進行し、左室収縮末期像がたこつぼに似ていることから「たこつぼ型心筋症」とも呼ばれています。発症メカニズムは未解明ですが、過度のストレスにより、ストレス関連ホルモンの急増が心尖部の微小循環不全や心筋障害を起こすためと考えられています。
閉経後の女性に多く、多くは数日から数週間で回復しますが、一部は心原性ショック、心肺停止、不整脈などをきたす例もあり、軽視できません。私たちの医療機関でも年間数例、胸部症状で緊急受診され、急性心筋梗塞との鑑別のため、冠動脈造影を施行する例を経験します。
我々がストレスを感じるのは、ネガティブな状況、愛する人の死、失恋、別れ、強度の怒り、大事故、自然災害(新潟県中越地震、阪神・淡路大震災、東日本大震災での症例報告があります)、戦争などが大部分と思われます。米国の調査では新型コロナウイルス感染症の流行でブロークンハート症候群が2倍に増加したとの報告もあります。一方、スイスの登録研究ではわずかですが、ポジティブな出来事をきっかけに発症する例もあり、「ハッピーハート症候群」と呼んでいます。あまりにもハッピー過ぎたこと(宝くじ当選、サプライズパーティー、阪神タイガースの優勝、孫の誕生など)でもストレスホルモンのバランスが乱れるのでしょう。
ほとんどの場合、幼少期に口からの感染、つまり食べ物や飲み物から感染すると考えられています。幼少期は胃酸の分泌が少なく免疫力が弱いため、胃の中に入ってきたピロリ菌が住み続けやすいわけです。上下水道が十分に完備されていなかった世代の人たち、つまり高齢者では幼少期にピロリ菌に汚染された井戸水を飲んだり、ピロリ菌を持った家族から食べ物の口移しなどを介して感染したと考えられます。衛生状態がよくなってからの若い世代では感染率は低くなっています。
過度なストレスは「こころ」はもちろんのこと「Heart 」も壊すことがあることを紹介しました。ストレスの少ない、こころ穏やかな日々が続くことを「Heart」は願っています。