令和3年10月15日(金)『駅前 Heart Seminar ~心不全を考える』を開催しました。
2021/10/23 イベント 武田病院
再発防止・スムーズな連携体制の構築へ
「駅前 Heart Seminar ~心不全を考える」を開催
『心不全パンデミック』と称されるほど急速に増加する心不全。この重要課題に対応するため、地域の開業医と中核病院が最新知見を共有するリモート研究会「駅前 Heart Seminar ~心不全を考える」が2021年10月15日に開催されました。(共催:康生会武田病院、トーアエイヨー株式会社)
一般演題では、康生会武田病院の木下法之循環器センター長・心不全センター長が座長となり、同院不整脈科・循環器内科の山﨑敬史医師が「心不全 × 心房細動 × カテーテルアブレーション」と題し講演しました。
山﨑医師は冒頭、「心房細動と心不全はお互いを悪くする関係性にあり、心不全が先にあって心房細動が再発した症例が最も予後が悪い」とし、関連するデータを紹介しました。このため山﨑医師はレーザーバルーンによる拡大肺静脈隔離に取り組んでいることを説明し、「再発の多い持続性心房細動においても、88.2%という高い洞調律を維持しており、発作性心房細動と同等の成績です」と語りました。
続く特別講演では木下センター長が引き続き座長を務め、新潟大学大学院医歯学総合研究科循環器内科学の猪又孝元主任教授が登壇し、「今どきの心不全管理 ~ 脚本はどう書くのか」と題し講演しました。
猪又教授は、「目に見える治療と目に見えない治療がある」とβ遮断薬等に触れながら、「効果である予後改善は目に見えません。これに対し副作用は目に見えます。患者さんの治療継続への思いをつなぎとめるためには、まず副作用対策が必要。上手に目に見えないところで予後を良くしていくのはとても恰好良い。これを是非、地域で共有して欲しい」と訴えました。
さらに猪又教授は、「これまで説明したように心不全の予後改善薬にはほとんど効果の実感がありません。それでも何か目安がないかこの10年間探ってきました。その一つの回答となるのが、『収縮障害の場合、左室駆出率が10%以上良くなる治療法はまず間違いなく予後を良くしている』とのデータです。もし左室駆出率(LVEF)が良くなっている治療があるとすれば、それはほぼ予後を良くしていると思っていい」とアドバイスしました。
また地域連携のポイントについて猪又教授は、「何よりも重要なのは頸静脈怒張です。内頸静脈、特に右の内頸静脈は心臓の内圧をかなり正確に反映します」と説明しながら内頸静脈怒張の診断について動画で解説。「起きている状態で首の皮膚が揺れている方に心血管の病気のない方はほぼいません。症状がみられる場合は武田病院へ」と連携体制の重要性を強調しました。
質疑応答で地域連携について質問された猪又教授は、「先程ご紹介した頸静脈怒張のように、なるべく単純な指標に置き換えて行っています。密な情報交換をし、一つひとつ確かめながら進めています」と説明しました。
オブザーバーとして参加した不整脈センターの垣田謙センター長(康生会武田病院)は、「アブレーションで原因をとった後、『目に見えない治療』の継続は不要なのでしょうか。例えばβ遮断薬は続けた方が良いのでしょうか。術後についてのお考えを地域の先生方も知りたいと思います」と質問を投げかけました。
これに猪又教授は、「入院患者ベースの報告で、薬をやめると約6割が悪化します。ただ、薬を使い続ければ安心かといえばそうでもなく、β遮断薬、ACE阻害薬を使っても27%の患者さんは悪くなるのです。しかも治療によるEFの改善に関わらず、予後の悪さは10年経つとほとんど変わりません。このように点として語るだけでなく、推移を見ながら、EFが下がっているときに前倒しで治療を組み立てていくべき、といった議論がようやく出来るようになってきたところです。どうしていくのかはこれからだと思います」と笑顔で答えました。
座長の木下センター長は講演・質疑応答を振り返りながら、「大変、分かりやすい解説で明日からの診療に活かせます。本日は本当に多くの先生方にご参加頂きありがとうございました」と研究会を締めくくりました。