認知症予防(もの忘れ)外来
認知症の増加と原因
わが国における認知症老人(65歳以上)は年々、増加しています。現在250万人を越えていると考えられますから、京都府の人口くらいです。2025年には500万人になるとみられています。
増えるだけが問題ではありません。大きな問題は加齢依存性に増えるということです。
簡単に言いますと、高齢になればなるほど認知症の方が増えるということです。具体的には65歳から69歳では100人に1人ですが、85歳以上になると、4人に1人という大変な数字です。
長年にわたり認知症の疫学研究がなされている福岡県・久山町のデータでは、老人人口の2%が毎年、認知症になります。65歳以上になると毎年、100人に2人が認知症になりどんどん地域社会で増加していくということです。
アルツハイマー型と血管性とが、その双璧で、パーキンソン病系の認知症(レビー小体型認知症)、前頭側頭型(ピック症候群)などのその他の認知症が続きます。血管性の認知症は脳卒中を起こした後になっていくことが多いと思われがちですが、実は高血圧症の放置などにより脳内の小さな血管がじわじわと梗塞を起こして、認知症になる症例が半数以上あります。
また、そのうちの半数がまったく脳梗塞の症状がでないままに認知症へと進展していくのです。血管性に対してアルツハイマー病、レビー小体型および前頭側頭型認知症は神経細胞の変性・脱落が主たる原因であるので、それらはまとめて変性型認知症と呼ばれます。
変性型認知症について
認知症老人が亡くなった後に脳を調べてみますと、血管性認知症ではCTやMRIなどの画像診断が進歩したこともあり、臨床診断にほとんど誤りがありません。
しかし、アルツハイマー病疑いと臨床診断された患者さんの約半数は病理学的にもアルツハイマー型認知症ですが、残りは高齢者に多いタウオパシーなどの非アルツハイマー型認知症であることが最近、わかってきました。
このように、アルツハイマー病と病院で診断されても実際はいくつかの病態が含まれていますので、これらをひっくるめて最近はアルツハイマー臨床症候群と呼ぶこともあります。
変性型認知症の3つの型をもう少し詳しく説明しましょう。
アルツハイマー型
アルツハイマー型認知症の特徴的な症状は記憶障害がまず起こってくることです。記憶の中枢である脳の側頭葉内側からだめになってくるからです。
パーキンソン病系の認知症(レビー小体型認知症)
パーキンソン病関連の病気から認知症になる場合は、小動物が見えるとか、人がいないのに誰かがいると訴えるような幻視をみたり、急におかしなことを言い出して精神的に混乱したりする幻覚・せん妄と呼ばれる状態になります。視覚の中枢として知られる後頭葉や側頭葉を中心に細胞障害が進むためで、細胞内にαシヌクレイン蛋白から構成されたレビー小体と呼ばれる構造が出現するのでレビー小体型認知症とも言います。
前頭側頭型(ピック症候群)
ピック症候群というのは、記憶障害よりもコンビニで物を取ってしまうとか、人の家に勝手に上がりこむなどの異常行動や人を無視したような態度をとるなど行為障害がまず現れる病気です。前頭葉や側頭葉に異状が起こり、比較的若い40~50歳代にピークがあります。
前頭側頭型認知症にはピック病(症候群)以外にもいくつかのタイプがあります。
アルツハイマー型認知症の診断について
アルツハイマー型認知症についてはそれをどのように確定診断するかが問題です。
亡くなったアルツハイマー病患者さんの脳を解剖してみますと、記憶の中枢でもある側頭葉内側、とくに海馬と呼ばれる部分が縮んでいます。染色して顕微鏡で調べますと、脳には老年者の皮膚に見られるシミのようなものが見えます。
また、神経細胞の中には繊維状の斑点もあります。前者は主にアミロイド蛋白から構成される老人斑、後者はタウ蛋白から構成される神経原繊維変化と言い、この2つはアルツハイマー病と確定診断するうえで重要な所見です。
しかし、治療のためには、臨床的な診断法が必要です。まず、「問診情報」です。
それには患者さん本人からではなく、家族からの情報が大切な判断材料となります。さっき聞いた事を又何回も聞くとか、何回も確認電話をいれるとか、などの問診情報が大切です。この場合、実際に本人の記憶など認知状態がどのくらい低下しているかは、長谷川式簡易知能評価スケールなどの簡単なテストで知ることができます。
1.問診情報
家族の問診情報では、特にこの5項目が問診でアルツハイマー病と診断する上で重要です。
- 同じことを何度も言ったり聞いたりする
- 物の名前が出てこなくなった
- 以前はあった興味や関心が薄れた
- 物を引き出しの奥のほうにしまったり、置き忘れたのを他人のせいにしたりする
- いつもしていたことをしなくなったり、計算や身の回りの管理ができなくなってきた
2.待合情報
次に「待合情報」というものがあります。
老人は認知症とは違う病気で診療所などの医療機関にかかっていることがよくあります。そこでの医療スタッフなどが気づく記憶障害エピソードが認知症判断の手がかりになるのです。
<例>
- 受付や窓口で同じことを何度も言ったり聞いたりする
- 予約時間を間違えたり、予約日に来なかったりする。
- 外来受診や会計の手続きができずしばしば混乱する。
- お金の計算ができなくなった。
3.診察場面
「診察場面」でのアルツハイマー病の特徴的な症状はそっけなく、取り繕って、もっともらしく振る舞うことです。
具体的には「どこから来たの」と、質問すると、「いつものとこから」と、答えます。「いつものとことはどこですか」と、突っ込むとわからなくなってしまい素っ気なく「どうやったかな」と後の同伴者に話を振ってしまうのです。
一見、正しい受け答えのように感じるのですが、実はその場しのぎであり、本人が記憶障害にどう対応していいのか不安に思っているためのある意味で悲しくて辛い防御態度なのです。
最終的なアルツハイマー型認知症の診断はこれらの問診情報、待合情報、診察場面、記憶・認知テスト、画像検査などから成され、以下を確認して決めます。
- 記憶障害を中心に認知障害がある
- それらが日常生活や社会生活に支障をきたしている
- ゆっくりと悪くなってきている状態である
- それが他の病気によるものではない
他の病気との区別
他の病気として高齢者で注意しなければいけないのは、まず、うつ病です。
ものわすれ症状をともなう高齢者のうつ病は仮性認知症とも呼ばれます。認知症とうつ病は治療法が違いますので、しっかりと区別しなければなりません。
もう一つ、診断で気をつけなければいけないのは、記憶障害や認知障害があっても日常生活や社会生活に支障をきたしていない状態です。このような老人は軽度認知障害(MCI)と呼ばれ、これには多くのアルツハイマー型認知症予備軍が含まれます。早期に見つけて、治療・予防の対象として、本格的な認知症に進行するのを抑えることが大切です。
画像診断
アルツハイマー型認知症の画像診断も進歩してきました。
CTが中心だった画像検査がPETやMRIになってきました。しかし、CTやMRIは血管性認知症や正常圧水頭症の早期発見には役立つのですが、アルツハイマー型認知症の早期は画像から判断することは難しいのです。ただ、最近では人工頭脳を使ってMRIの脳萎縮パターンからアルツハイマー型認知症への進行を予測する検査(BAAD)の利用が可能になり診断に役立てることが出来るようになりました。さらに、脳血流の脳内分布を調べることのできるSPECTを使えば、脳内の血流が低下しているところがわかるので、記憶・認知の中枢である側頭葉の血流が低下していれば、アルツハイマー型認知症が疑われます。
また、アミロイドPETでアルツハイマー型の発症前診断を試みることや、MRスペクトロスコピー(MRS)で海馬などの神経細胞マーカーを調べて血管性とアルツハイマー型の区別もできるようになりました。
MRSではコンピュータ解析により神経細胞マーカーの動きを脳部位別に数値化できるので、脳の異常を客観的に把握できます。
生活能力の低下と認知症発症の関係
日常生活における生活能力の低下と認知症発症の関係も研究されています。
以下の4項目すべてができなくなったら、認知症になる率が300倍にもなるのです。
- 自分で電話番号を調べてかけられる
- 1人でバスや電車を利用して、あるいは車を運転して出かけられる
- 決まった分量の薬を決まった時間に飲むことができる
- 家計のやりくりができる
認知症発症のリスクを下げる生活習慣は、以下のようなもの有効といわれています。
<例>
- 適度な運動
- ワインを1日1、2杯
- 魚を食べる
- 日常的に他人と接する頻度を多くする
- 野菜や果物からビタミン類を摂取する
- テレビやラジオの視聴
- 新聞、本、雑誌を読む
- トランプなど頭を使うゲームをする
- 博物館へ行く
- 楽器の演奏
- ダンス、ゲートボール
その他の認知症予防
アルツハイマー型認知症を中心にお話ししてきましたが、日本では血管性認知症対策も問題です。
血管性認知症では脳塞栓のように脳の大きな血管が詰まることよりも、小さな血管が徐々に詰まっていくことのほうが問題です。高血圧の人は血圧をコントロールすることで、かなり予防できます。
また、歩行障害と失禁、認知障害が重なる特発性正常圧水頭症・水頭症性認知障害も頻度の高い異常であり、これらを含めて高齢発症の認知症をすべてカバーしなければなりません。
認知症チェックリスト
次のチェックリストで、あてはまるものにチェックをしてください。
- 同じことを短い時間のうちに何度も言ったり聞いたりするようになった。
- 話す時、物の名前が出にくく、「あれ」「これ」などと言うようになった。
- 以前はあった関心や興味が失われ、日課をしなくなった。
- 置き忘れやしまい忘れが目立つようになった。
- 時間や場所の感覚が不確かになり、約束事を間違えるようになった。
- 計算の間違いが多くなった。
- 慣れている所で、道に迷ったことがある。
- 蛇口やガス栓の締め忘れが目立つようになった。
- 薬の管理が出来ない。
- 片麻痺あるいは失語症がある。(脳卒中になったことがある)
- 最近、よくむせる。しゃべりにくく、飲み込みにくいことがある。
- 以前から高血圧、あるいは糖尿病がある。
- 歩幅が狭くなり、歩きにくくなった。
- おしっこがすぐに出ずに回数が多くなった。あるいは尿漏れがある。
【結果】
- 1~9のうち「はい」が0~2個の方
認知症の可能性は低いと思います。 - 1~9のうち「はい」が3個以上の方
認知症の疑いがあります。 - 1~9の「はい」が3個以上で、10~14の「はい」が0~1個の方
特に脳細胞性(変性型)認知症の疑いがあります。 - 1~9の「はい」が2個以上で、10~14の「はい」が2個以上の方
特に血管性認知症の疑いがあります。 - 1~9の「はい」が2個以上で、13・14が「はい」の方
特に水頭症性認知症の疑いがあります。
※脳細胞性認知症・血管性認知症・水頭症性認知症は必ずしも単独した病気ではなく、合併することもあります。
<ご利用上の注意>
この認知症チェックリストは、あくまでも目安としてお考えください。 正確な認知症の診断をするものではありません。もしかして認知症かも?と思ったら、物忘れ外来ないし脳神経内科外来の受診をおすすめします。
監 修:京都認知症総合センター顧問・支援研究所長 秋口一郎
参考文献:東京福祉局 高齢者の生活実態及び健康に関する調査、専門調査報告書
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