Iru miru 健康通信 山科武田ラクトクリニック 消化器内科 高橋 周史 「ピロリ菌のお話」
2024/05/31 メディア 武田病院グループ
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山科武田ラクトクリニック 消化器内科 高橋 周史
「ピロリ菌のお話」
ピロリ菌とは?
正式名は "ヘリコバクターピロリ"といって、胃の中で生息可能な細菌のことです。胃酸により強い酸性である胃の中では通常の細菌は生息できません。しかし、ピロリ菌はウレアーゼと呼ばれる酵素で生成したアンモニアを用いて胃酸を中和することにより、胃酸から守られて胃の中でも生息できると考えられています。
なぜ胃に感染するの?
ほとんどの場合、幼少期に口からの感染、つまり食べ物や飲み物から感染すると考えられています。幼少期は胃酸の分泌が少なく免疫力が弱いため、胃の中に入ってきたピロリ菌が住み続けやすいわけです。上下水道が十分に完備されていなかった世代の人たち、つまり高齢者では幼少期にピロリ菌に汚染された井戸水を飲んだり、ピロリ菌を持った家族から食べ物の口移しなどを介して感染したと考えられます。衛生状態がよくなってからの若い世代では感染率は低くなっています。
ピロリ菌感染の弊害は?
ピロリ菌が胃に感染していると、胃の粘膜は胃炎を起こし慢性的に経過します。通常は自覚症状もなく萎縮性胃炎に進行し、この胃炎の粘膜を背景に胃がんが発生しやすいことが分かっています。胃炎による変化が強いほど発がんリスクが高くなると言われています。その他、胃・十二指腸潰瘍、胃MALTリンパ腫、ピロリ菌関連ディスペプシアなどの消化器疾患だけでなく、特発性血小板減少性紫斑病や鉄欠乏性貧血などの消化管外疾患とピロリ菌の関連もわかっています。
除菌治療は有効なの?
抗生物質を含む内服薬を1週間服用すると9割以上の確率で除菌でき、除菌による胃がんの発がん予防効果も証明されています。前述のピロリ菌関連の疾患においても除菌の効果が示されています。一方で、近年は抗生物質が効きにくい耐性菌が増加していることや、除菌成功後のいわゆる「除菌後胃がん」が決して少なくないことなどが課題となっています。そのため、専門的知識を有する消化器内科医のもとでの適切な治療と効果的な治療後フォローアップが重要です。