脊椎圧迫骨折に対するセメント治療:経皮的椎体形成術
Q&A
脊椎圧迫骨折に対するセメント治療とは?
圧迫骨折した背骨(脊椎)に針を刺して、そこから医療用のセメ ント(骨セメント、ポリメチルメタクリレート)を注入して、痛みをとる治療のことです。正式には「経皮的椎体形成術」といいますが、患者さんにはもっぱら『セメント治療』といって説明しています。
骨粗鬆症などが原因で、背骨が圧迫骨折を起こすと、強い痛みが生じます。これまで、このような骨折の痛みに対して、鎮痛剤の投与や安静、コルセットの使用などで治療してきましたが、痛みがなかなかとれなかったり、高齢者では長期臥床による足腰の弱り、肺炎、痴呆症状が生じて問題でした。
それに対してこの治療では局所麻酔のもと、切らずに針一本でできるので、負担は軽く、また所要時間は30分ほどです。骨由来の痛みに関してはほぼ確実にとれます。治療後の長期安静は不要で、数時間後には離床が可能となります。
つい先日、セメント治療を行った86歳の女性ですが、治療前は猛烈な痛みのため、声は小声で、寝返りを自分でうつ気力もなくなり、痴呆症状もでてほとんど寝たきりでしたが、セメントを入れたとたん、痛みが消え、自分で歩かれるようになりました。でていた痴呆症状も消え、同室の方と大声で談笑されている姿は全く別人で、治療した我々がびっくりするくらいの回復ぶりです。
経皮的椎体形成術の適応と治療効果について
骨粗鬆症や転移性脊椎腫瘍による圧迫骨折の痛み(椎体由来の痛み)に対して適応があります。急性期、慢性期を問いません。ただし術前、責任部位確定のため、MRIが必須です。
単純レントゲンだけでは圧迫骨折していても、責任部位かどうかはわかりません。責任病巣の同定さえ誤らなければ術翌日より起立歩行時の骨由来の痛みはほぼ確実に消失し、効果は永続します。痛みから解放され、歩けるようになり、中腰が可能となる等、日常生活能力が改善されます。
経皮的椎体形成術の歴史について
1980年代に、頸椎腫瘍に対して骨セメントの注入を行い、治療しだしたのが最初といわれています。骨粗鬆症による圧迫骨折に対して骨セメントの注入を行い始めたのが1980年代後半で、以降、1990年代後半頃より米国を中心に、骨粗鬆症による圧迫骨折の治療にセメント注入が行われ、その効果が認められるようになりました。我が国でも、2011年以降は保険診療での治療が可能となりました。
3種類のセメント治療方法があるとききましたが
はい、一つは局所麻酔のもと細い針1本で骨セメントを注入するやり方(PVP)です。もっとも負担は軽く日帰りでも可能です。ただし、2022年時点では健康保険が効きませんので自費診療となります。
あと二つは、全身麻酔のもと針を刺した後、背骨を風船でふくらませて 空隙を作ってセメントを注入する方法(BKP),最近ではさらにステントでその空隙を内貼りしてからセメントを注入する方法(VBS)です。こちらは健康保険が適応されます。
局所麻酔でおこなうセメント治療(PVP)の具体的な方法について
手術室で腹ばいになってもらい、局所麻酔を行います。レントゲンで確認しながら、背中から針を脊椎内に進めます。
これで安全を確認した後、歯磨き粉くらいの柔らかい骨セメントを、レントゲンで確認しながら慎重に脊椎内に注入し、針を抜去して終了です。通常、治療は30分前後で終了します。骨セメントは約1時間で固まりますが、安全のために2時間程度、ベッド上で安静をとってもらっています。以降は歩行など自由にしてもらいます。患者さんの希望により、翌日には退院可能です。
風船を使う方法(BKP)やステントを使う方法(VBS)について
全身麻酔のあと、針を背骨にいれるところまでは先の方法と同じです。違うのは針が少しだけ太くなることと両側を刺す必要があることです。針が入れば、背骨の中で風船を一旦膨らませ、空隙を作り、風船を抜きます。そのできた空隙に骨セメントを注入します。風船(バルーン)を使うのでバルーンカイホプラスティ(BKP)といいます。この方法は2011年から健康保険での治療が認められています。
2021年からは風船で一旦膨らませた後に、ステントといわれる金網で空隙を内側から補強する方法(VBS)が本邦でも健康保険がみとめられており、当院でも2021年4月より多くの症例で実施しております。
VBS 参考動画
合併症について
可能性は低いですが、骨セメントに対するアレルギーが生じる場合があり得ます。また骨セメントが脊椎以外に漏れ出た場合、肺塞栓や脊髄損傷の可能性があります。(肺塞栓は同じ種類の骨セメントを用いる人工関節の手術では、0.02%の発生率です。今回紹介した治療では使用する骨セメントが少量であるため、発生率はこれよりも低いと考えられています。)当院では2003年より、海外での修練や実験・臨床研究を重ねて治療成績向上を図っており、合併症は生じていません。
今回紹介した経皮的椎体形成術は痛みに対して、低侵襲で十分な効果が得られる理想的な治療方法です。圧迫骨折に苦しむ患者さんの福音となれば幸いです。