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2020年度たすき掛け研修医 井上先生へのインタビュー

本日は滋賀医科大学のたすき掛けとして当院で1年間研修された井上先生にお越しいただきました。


——井上先生、先生が当院でのたすき掛け研修を選んだ理由は何ですか。

医仁会武田総合病院は内科系が充実していて、診療科間の垣根が低そうで、研修がしやすそうだったからです。

——先生の将来の専門領域は何ですか。

腎臓・内分泌・代謝などです。生化学などが好きなこと、慢性疾患の患者さんとお話しするのが好きなことから、将来の専門にしたいと思っています。

——当院の1年間ローテーション中にはどのようなことを経験できましたか?

基本的な手技から、書類作成などのデスクワークにいたるまで、様々なことを経験できました。また、症例をたくさん持てたと思います。

——手技はどれくらいできましたか。

静脈採血や動脈ガス採血などは、最初は2年目の先生についてもらわないとできなかったのですが、救命救急センターを回ってからはかなり数をこなして自分ですべて判断してできるようになりましたし、胸水穿刺とか腹水穿刺とかも何度かやらせてもらえて、だいたいできるようになりました。

また、内科志望・外科志望関係なく、外科的処置をいろいろさせてもらったので、縫合なども救急や外科の先生に上手だと褒めていただけるようになって嬉しかったです。中心静脈カテーテル挿入はあまり出来ていなくて、PICCと併せて10回程度でした。

——内分泌代謝の症例は持てましたか。

ウェルニッケ脳症やビタミンB12欠乏の乳児の症例は私の中で一番興味深い経験になりました。

——乳児の症例というのはかなり珍しいと思うのですが、どのような症例でしたか。

貧血と活気がないということで受診されたのですが、小児の貧血が珍しく、貧血の原因精査でビタミンB12欠乏が原因と分かりました。そこでお母さんに詳しく問診をしたところ、幼少期にお母さん自身が先天性小腸閉鎖のために回盲部切除をしていたことがわかりました。そこで母乳のB12濃度を測定したところかなり低値だったことがわかり、母乳中のビタミンB12欠乏による乳児のビタミンB12欠乏症をきたしていたと診断しました。

大人のB12欠乏症であれば、本人の問題だけを考えればよかったのに対して、小児の場合には母親の既往歴まで確認しなければならないと学んだことは、大変勉強になりました。

——それは、成人しか普段見ていない私にとっても大変興味深い症例です。他にどのような興味深い症例を経験出来ましたか。

抗MDA-5抗体陽性皮膚筋炎、成人スティル病、原発性胆汁性胆管炎と自己免疫性肝炎のオーバーラップ症候群、傍脊柱起立筋に発生した軟部組織原発悪性リンパ腫、IgA血管炎などの入院症例を経験しました。

——なるほど。大学であればこのような症例は多く経験できるのだと思いますが、市中の病院である当院でも学術的に興味深い症例が数多く経験できてよかったですね。学会発表はどの症例で行ったのですか。

先ほどの乳児のビタミンB12欠乏症の症例と、病理解剖で詳細に検討した感染性腹部大動脈瘤破裂の症例の2例について発表を行いました。学会発表をすることで、自分の症例を整理するきっかけになりましたし、また、発表の準備のために論文をたくさん読む機会になりました。小児のB12欠乏症の論文は全部英語だったので、とりあえずすべて頑張って読みました。

——それはよい経験になりましたね。医師として働いていくうえで、論文検索や学会発表になれていることが大変重要だと思います。 先生は滋賀医大のCプログラムによりたすき掛けとして当院で1年間研修されましたが、1年間当院で研修して良かったと思われる点、大変だったと思われる点について、教えてもらえますか。

良かったと思う点は、コモンディジーズをたくさん経験できたことです。大学だと自分で処方したり検査をしたりという決定権があまりないのですが、医仁会武田総合病院ではかなり研修医の裁量権を認めてもらえているので、主治医に聞く前にまずは自分で考えないといけないということが多く、大変勉強になりました。

さらに、貧困とか高齢者の独居、DVといった社会的な問題をたくさん抱えている方が多く、そのような社会的背景を考えながら疾患の治療にあたることが非常に重要だということを、学ぶことができました。

また、大学などでは上級医と研修医の関係が多いのですが、医仁会武田総合病院だと臨床工学技士さんとか、看護師さん、検査技師さん、薬剤師さんなど、みんなが研修医にいろいろと教えてくれる環境があって、各職種の垣根もすごく低いと思うところがいいところだと思いました。

逆に大変だったと思う点は、施設を1年で変わるために、J-OSLERの症例登録に最後すごく追われてしまったことです。私の場合、年を明けてから内科が3つ続いたこともあり、せめて3月は時間の余裕がある科に回るべきだと思いました。

——大変重要なアドバイスありがとうございます。今後のたすき掛けの方には、4月にそのことを強く説明しておきますね。 研修について、1年間を振り返ってどうでしたか。

1年間振り返ってみるとできることもいっぱい増えたのですが、自分ができないことも浮き彫りになってきたと思います。指導医の下で言われていることだけをしていると気が付きにくいとおもうのですが、自分で外来を担当してみると、どこまで聞いていいのか、どこまで検査したらよいのかということについて判断に迷うことが多くありました。

また、例えば、腸炎を腸炎と診断することや、風邪を風邪と診断することが大変怖いと思いました。特に若い女性っていうだけで、いろいろと悩むことが増えて難しいと感じました。問診の技術や必要な検査のプランなどは、医師になってからも一生学び続けないといけない技術なので、これからも経験を積んでいくしかないですね。

問診や診断の技術を磨くことは、当院で毎週やっている救急症例検討会でやっているように、検査前確率を挙げていくために問診や身体診察からしっかり考えて、検査後に自分の診断が正しかったのかどうか、検証を続けていくことで身についていくのだと思います。

——これから病院見学・就職活動を考えている学生さん、また、たすき掛けのプログラムを考えている学生さんらに、研修病院選びのポイントについて何かアドバイスはありますか。

お給料がいいとか、立地がいいとか、施設がきれいとか、いろいろと選ぶポイントはあると思うのですが、やはり自分にとって心地いい雰囲気というのはとても大事だと思います。マッチングの人気病院ではなくて、自分の感覚でいいと思う病院に行った方がいいと思います。

また、私は12病院に見学に行ったのですが、欲張ってあまりたくさん見学に行きすぎない方がいいと思います。自分がいいと思った病院は結局3つくらいに絞られるので、いいなと思った病院に何度か行く方が良いと思います。

——本日は大変有難うございました。先生の今後のご活躍を心より期待しておりますね。

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