本日は琉球大学をご卒業され当院で2年間の臨床研修を終えられ、令和5年度より兵庫県立尼崎総合医療センターでER総合診療科にて内科専攻医としてご就職予定の嘉手苅 桃子先生にインタビューをお願いしたいと思います。
——嘉手苅先生、当院を臨床研修先に選んだ理由は何ですか。
京都で働きたくて、かつ、同期が多すぎず少なすぎない病院を探していて、また総合診療科が強いところを探していたところ、見学に実際に来た時に研修医の先生方が楽しそうに活発に働いていたことが当院を選んだ理由です。また、座学よりも動くタイプの研修が私にあっていると思ったことも当院を選んだ理由です。
——なるほど。多くの研修医の先生方が当院の研修医の仲の良さを見て選んで頂いています。また、当院は座学としてのセミナーも1年目は週3回ありますが、実際に動いて学ぶことが大変多いですね。ところで、嘉手苅先生は学生時代にはどのような診療科を目指していましたか。
学生時代は、産婦人科と泌尿器科に興味がありました。どちらの診療科も初診から診断、治療とその後のフォローまで一貫して出来ること、さらに内科的側面と外科的側面のいずれの側面もあることに惹かれていました。
——先生は、病院見学の時からそのようにおっしゃっていましたね。しっかりと将来の志望科を考えているので大変印象的でした。現在は内科専門研修へ進む道を選ばれたわけですが、研修中にどのように志望科が変わっていったのですか。
一つは、昨年10月まで総合診療科の指導医だった武田拓磨先生から患者さんの診察を通して問題を解決するという総合診断の楽しさを教えてもらったことと、もう一つは、根本的に見られる範囲は全部見るという総合診療科のスタンスが自分に合っていたことでした。
研修を進めていくうちに、専門的な診療科では内科的管理が弱くなってしまったり、産婦人科であれば女性しか見られなかったりという偏りがあるのを感じて、全身管理ができるようになりたいという気持ちが次第に強くなってきました。その結果、2年目の初め頃より志望科が内科に変わってきました。また、ローテーションしていく中で自分の考え方が外科的というよりも内科的だったというのも決め手だったと思います。
——自分が見ることができることはすべて見るというのは、私もすごく大切にしており、先生のご意見に強く共感しますね。全身管理ができる医師になりたいという点も私も全く同感です。そのような気持ちからメジャーな診療科が先生に向いていたということですね。さらに、先生が外科的よりも内科的だと自分が思ったのはどのような点なのですか。
研修をしていくうちに、外科は手術毎に決まった術式があり、その精度を高めていくということを逆算して考えて治療していく方向性だと思ったのですが、一方で内科はゴールが分からないものにアプローチしてゴールを探していく方向性だと思いました。内科は外科とアプローチが逆だと感じるようになって、私自身は職人として精度をあげていくよりも、診断がつかなくても対応していけるという内科系の方がより楽しいと感じて内科を選びました。
結局は、手術という手技は好きでその点で外科系は好きなのですが、解決策を考えていくというアプローチの方が好きで得意かなと感じて、自分は内科的だと思いいたりました。
——私も診断学的アプローチが好きなので、総合診療科をやっていてとても楽しいのですが、先生が外科との違いを上手にまとめていただいて大変驚いています。2年間の研修で本当に多くの診療科で経験を積んでいただいたことだと思って嬉しく思います。
嘉手苅先生にとって、研修中に強く思い出に残る症例はありましたか。
総診で見た患者さんで、身寄りがなくて誤嚥性肺炎を何回も繰り返して看取りに向けた退院までを決めていくという患者さんを経験しました。その患者さんは次第に口から食べられなくなり、最後は意思表示もできなくなっていきました。私は担当医として最初は一人で思い悩んでどのようにすべきか考えていたところ、指導医の先生からこのような症例こそチーム医療が重要であり、多職種連携して最後まで見ていくことが大事だと教わりました。
そして、チーム医療で社会的背景も考えて最後の方向性を決めていくという、医師国家試験でも全く学ばなかった経験をさせていただいて、今の自分の診療科の決定にも影響しているのかと思います。
——それは大変な症例を経験できましたね。総合診療科では高齢者で食事がとれなくなったような患者さんを多く見ますが、胃瘻を作るのか、作らないのか、家に帰るのか、施設に入るのか、病院に入るのか、家族背景や社会的サービスを含めて本当に様々なことを考えて退院調整を進めていきますね。医師一人ができることは本当に限られてくるので、ご本人、ご家族、ケアマネ―ジャー、訪問看護師、病棟看護師、そして患者サポートセンターのスタッフなど多くの方に協力いただいて退院調整を進めていますね。
この経験は先生がどのような診療科に行ってもきっと役立つものですが、総合診療科では研修医の先生に病状説明をしていただいたり、チーム医療のメンバーとして主体的に経験を積んでいただいています。先生が一番思い出に残る症例がそのような退院調整をされた患者さんだというのは、人間としても大変素晴らしいことではないかと思います。
ところで、嘉手苅先生は、学会発表をした経験はありましたか。
私は3症例の学会発表の経験をしました。1年目の秋にIgG4非関連の炎症性腹部大動脈瘤の術前ステロイド療法を行った症例報告と、2年目の4月に外科で十二指腸穿孔を保存的治療で見たという4例をまとめた症例報告と、2年目の夏に泌尿器科でアデニン結石という遺伝性尿路結石症の症例報告をしました。
半年おきに3回発表をしたので、徐々に調べる方法やまとめる方法の精度があがり、人にどのように伝えるかというノウハウが上手くなったと思います。普段自分で経験して、あれっ?と思った症例については症例報告をしていくという意識をこれからも持ち続けたいと思いました。
——最初の1例目は私と一緒にまとめた症例ですね。学会発表が上手になるということは、その症例を他人に伝えるために何を取捨選択していくのか、さらにどれだけ掘り下げていくのかということを、制限時間内にプレゼンテーションしていくということで、医師にとってなくてはならない経験・技能だと思います。当院では最低1例の学会発表を課していますが、3例も発表されたのは大変良かったです。
研修期間中の2年間で先生が一番勉強になったのは何でしたか。
定期の勉強会以外にも研修医同士で各自の救急症例や入院症例をディスカッションしたことはすごく勉強になりました。研修医室で日々、些細なディスカッションがあちこちでありましたし、それも研修医だけでなく、上の指導医も交えてやることがありました。同期の研修医が研修医向けに何度も症例クイズ大会もやってくれて、活発にディスカッションができたのが良かったと思います。
——指導医と別の研修医室という部屋があるのもよかったですね。それに一人一人が経験できることは限られるので、研修医同士でディスカッションすることは先生方の経験を何倍にも増やしてくれていると思います。症例クイズは私も参加させていただきましたが難しかったですね(笑)。
ほかに臨床研修以外で楽しかったことや、思い出に残ったことはありますか。
私は京都に住むことが小さいころからのあこがれで、ようやく来たらコロナで街に出ることができなかったのですが、研修の合間を縫って同期や先輩・後輩と食事にいけたのはいい経験になりました。それに、たまに鴨川を見に行って私は京都に住んでいると実感するのが楽しかったです(笑)。後は、桜、紅葉、雪という美しい京都の四季を楽しめたのはよかったです。
——たしかに、COVID-19の影響で京都観光どころではなかったのは本当に残念でしたね。それに、これまで毎年行っていた研修医歓迎会や納涼祭、修了記念パーティーも全く開催できず、仕事以外のことを話す機会もなかなかなかったのが残念でしたね。でも、先生が少しでも京都を楽しんでいただけたのは何よりでした。
最後に、これから病院見学・就職活動を考えている学生さんらに、研修病院としての当院の魅力について教えていただけますか。
一番は上の先生方が研修医の指導に熱心なのが、非常にありがたいと思います。バック(背後)に先生がいるという安心感でのびのびと自分の考えたようにやらしてもらえましたし、各科のハードルも低かったので、一度回った診療科にはローテーションをしていなくてもなんでも相談できたこともありがたかったと思います。
——ありがとうございます。先生と同じように、将来の専門とする診療科や研修病院の決め方にも迷っている医学生さんに、何かアドバイスを頂けますか。
私は同期の人数でこだわったところもあったのですが、今は案外、同期の人数にはこだわらなくてもいいと思っています。また、ハイパー・ハイポとか個人の中である程度どのような研修医生活を送りたいという考えがそれぞれあると思いますので、無理なく研修生活を送れる病院を探すことが大事かと思います。
最初の選択もそうですし、背伸びをしすぎてきついところに行ってしまって入ってみて合わないとかがあれば、病院を変えて研修生活を変えた人も私の同期には意外といるので、自分がしんどいと思ったら研修先を変えるという選択肢があることを覚えておいてほしいです。自分の体や心が健康ではないと人生が豊かにならないと思うので、変に病んで落ちていくよりも、無理をせず自分に合ったところを探して研修先を変わっていくのも重要だと思います。
また、将来の診療科については、自分がやってて楽しいと思えるところを選んだ方がいいと思います。最後になりますが、専攻医の病院見学については、私は遅かったので(笑)、早め(1年目の後半くらい)に動き始めた方がいいと思います。
——本日は貴重なお話を大変有難うございました。先生の今後のご活躍を心より期待しておりますね。