本日は大阪市立大学(現 大阪公立大学)をご卒業後、当院で2年間の臨床研修を終えられ、令和5年度より東京医科大学八王子医療センターの救命救急センターにて救急科専攻医としてご就職予定の泉 千早也先生にインタビューをお願いしたいと思います。
——泉先生、当院を臨床研修先に選んだ理由は何ですか。
病院見学の際に、当院の初期研修では手技や手術などに積極的に参加させてもらえることを肌で感じたので選びました。
——当院は、手技・手術はいっぱいさせてもらえますからね。先生のもともとの志望科は何でしたか。
もともとは外科志望でした。特に肝胆膵外科に行きたいと思っていました。
——なるほど。それで当院での研修を希望されたのですね。専門研修先としては救急となりましたが、研修中にどのように志望科が変わっていったのですか。
一つ目に、当直研修を通じて、内科系疾患に関しても急性期病態であれば興味を持って取り組めたこと、二つ目に、手術による確定診断と治療だけではなくて、問診や身体所見による臨床推論にも興味が出てきたため、急性期病態における内因・外傷を問わない診断と治療ができるようになりたいと思ったことで、救急医を志すようなりました。
——臨床推論に興味を持ってもらえたのは、総合診療科医の私としては大変うれしく思います。特に私が当院に赴任してからすぐに始めた救急症例検討会については、これまでは私は病態や解剖学的な点から網羅的に鑑別リストをあげて、合う点・合わない点を考えながら疾患を絞り込むことを重視していましたが、泉先生の御提案で救急隊情報から頻度の高い疾患・重症度の高い疾患の二つの軸から鑑別リストをあげて考えていく方向性に変えていきましたね。
救急症例検討会としては、総合診療科としての私の病態別の考え方よりも、実践に即した形になってよかったと思います。泉先生は常に救急症例検討会をリードしてくださって感謝しています。
泉先生にとって、研修中に強く思い出に残る症例はありましたか。
1年目の4月の総合診療科で診た肝膿瘍の症例です。血液培養で起炎菌がFusobacterium nucleatumと判明しました。文献検索により、本菌種は消化管常在菌でありながら、大腸癌の発症や進行に大きく関わっており、大腸癌の部位をエントリーとして肝膿瘍を形成しうるということを知りました。肝膿瘍治癒後に、消化器内科での下部消化管内視鏡検査を勧めたところ、実際に早期大腸がんが発見され、手術により根治されました。
肝膿瘍を見たときにエントリーを探すことの臨床的重要性を学べただけでなく、臨床上の疑問に対して、文献検索により、他科領域の診断治療にも繋げる経験が出来ました。当時外科志望だった身としては、内科的推論と診断によって分かることの幅広さに感動しました。
——大変珍しい菌に当たったのですね。しかも、研修1年目の4月というもっとも感受性の高い時期に、一つの感染症から癌の発見と治療につながるような貴重な経験をされたのは大変幸運でしたね。泉先生は、学会発表をした経験はありましたか。
第77回消化器外科学会総会に研修2年目の7月に緩和型アニサキス症の2症例について報告しました。
——緩和型アニサキス症ですか。救急症例検討会には提示されたことはないですね。泉先生は、この症例を診たことがあったのですか。
実は、緩和型のアニサキス症は経験していなかったのですが、この発表を勧められる直前に劇症型の(いわゆる普通の)アニサキス症を見ていたので、この発表を勧められた時に是非やってみたいと思いました。
——なるほど。緩和型アニサキス症というのは、どのくらいの頻度なのですか。
無症候性に消化管粘膜下に好酸球性肉芽腫を形成し、多くの場合、自然治癒する疾患のため診断される頻度はとても低いのですが、たまたま場所が悪いと腸閉塞などをきたしうる疾患です。私が発表した症例のうち、1例目は健診で偶然にSMT(粘膜下腫瘍)として発見されて、当院で超音波内視鏡とEMR(内視鏡的粘膜切除術)をして診断された症例でした。
2例目は若年女性の閉塞起点が不明な小腸閉塞に対し、外科的切除によって診断された症例でした。ちなみに、アニサキスに対する初回感染は、緩和型をとるのではないかと言われており、いわゆる急性腹症として来院するのは2回目以降の感作ではないかという説があります。
——それは大変面白い説ですね。初回感染は感作だけが成立するので、感作後の2回目の抗原暴露で蜂アレルギーのように重症のアレルギー反応をきたすということですね。サバやホタルイカを食べた後に、症状もないのに病院に行きませんからね。
泉先生は研修期間中の2年間でいろいろと経験を積まれておりますが、先生が一番勉強になったことは何でしたか。
研修2年目の当直研修だと思います。救急搬送と違ってWalk in症例もたくさん診ることになり、1年目と違ってマルチタスクを要求されることが増えます。その時にどの患者の検査を優先的に進めるかなど、自分の中で対応に濃淡をつけなければいけないという救急的な考えを学ぶことができたのは大きかったと思います。
——なるほど。少し解説すると当院では1年目は全科の救急車対応なのでマルチタスクをこなすことはほとんどないですが、2年目からは内科のWalk inと内科救急の両方を内科当直医と一緒にこなさなければならないので、自分の中でトリアージをつけながら外来をこなしていく能力が求められますね。
これは、先輩医師として申し上げると医師としての大変重要な能力で、私など常に5~10個以上日常生活の中でマルチタスク状態なのですが、片付けられるタスクはすぐに片づけておき、時間のかかるタスクは優先順位をつけて後回しにしながら期限内に処理するということが常に求められます。当院の外来当直研修で外来診療のマルチタスクをこなされたことは、先生の医師としての能力を高めるうえで、必ず役に立つと思いますよ。
ところで、2年目の当直研修では、通常はどれくらいの人数(タスク)を、最大で何人くらいの人数(マルチタスク)をしていましたか。
普段は2-3例同時に検査を出すことはよくありましたが、多い日、特に日直の時は5-6例の症例を同時に対応することもありました。
——それは、しっかり鍛えられましたね。十分、救急医としても一般外来診療をこなす上でも、実践力が養われたと思います。
ほかに臨床研修以外で楽しかったことや、思い出に残ったことはありますか。
コロナ禍であったこともあり、思い出は殆ど病院にいたときのことしかないです。病棟で学びながら働くのも楽しかったのですが、研修医室で時に学生同士のように研修医同士でわいわいできたのも楽しかったです。特に、病院が主導している勉強会とは別に、自分たちで興味を持った内容に関して本を読んだりして、スライドにしてシェアするなどの自発的な勉強会はたくさんやりました。
例えば、救急外来において最低限の情報から疾患を想起するトレーニングとして、「症例の100本ノック」というスライドを作って、みんなで4-5回やりました。地域研修で宮津に行っている時にずっと作っていて、めちゃめちゃしんどかったのですが、めちゃめちゃ楽しかったです。休憩時間にはネットで探してきた、東南アジアの変わったお菓子を食べながら症例について話し合ったりして、funnyとinterestingを両方兼ね添えた生活を送ることができました。この姿勢は私が今後医療に臨む上での基本的なスタンスになるだろうと思います。
——ありがとうございます。つまり400-500例の症例クイズを皆さんで自発的にやり遂げていたのですね。それは本当にすごいことだと思います。
泉先生と同じように、救急を志す方にとって当院の臨床研修のよいところ、悪いところを教えていただけますか。
大前提として、何科を志すにしても(特に診療科が決まっている人にとって)、自分の志望する科のことだけを初期研修の2年間で勉強すればよいわけではないと思います。特に救急科は、超急性期から急性期であれば、理想であれば全診療科において十分な知識を持っていなければいけないと思います。私の中では救急科とは、より正確に言えば、急性期科なのです。この考えのもとで、当院の各診療科で急性期のことを学びたいとアピールすれば、指導医の先生方がそれに合わせた指導をしてくださいました。
例えば、糖尿病科ローテートでこの話をしたところ、重症患者の栄養管理や、高血糖緊急症を重点的に診させていただきましたし、逆に内科領域を志望する同期の研修医は、慢性期の血糖管理について指導をして頂けたようです。研修医の目的がしっかりしていればしているほど、それに指導医が応えてくれました。
悪い点としては、当院は三次救急の施設ではないので、多発外傷や重症中毒は診る機会がありません。私が来年度以降救命救急センターで働くにあたり、個人的に重点的に補強しないといけないと思っています。
——良く分かりました。当院は三次救急の病院ではありませんので、多発外傷や重症熱傷などの症例は来ませんからね。ただ、内科疾患は二次・三次関係なく重症例が運ばれてきますし、またいつも救急の中谷先生がおっしゃっていますが、三次救急はあまり診断に悩むことは無いということで、臨床推論を鍛えるという点では、二次救急の面白さがありますよね。
最後に、これから病院見学・就職活動を考えている学生さんらに、研修病院としての当院の魅力について教えていただけますか。
医仁会武田総合病院は救急搬送数も中くらいで、いわゆる症例が雨あられとある病院ではありません。しかし、上級医の質がどの科も高いので、症例が少なくても1例1例を掘り下げてくれたり、過去の症例を持ち出してディスカッションしてくれたりと、研修医の熱意にどこまでも応えてくださるところが一番魅力的だと思います。
私は研修医として学ぶにあたっては、自分が学びたいことや、できること、できないことをしっかり整理して言語化していくことが、密度の高い臨床研修をするうえで重要なポイントだと思います。それに応えてくれる環境が当院にはあると思います。
——本日は貴重なお話を大変有難うございました。先生の今後のご活躍を心より期待しておりますね。