——本日は当院で3年間の総合診療専門研修を終えられて、総合診療専門医となられた武田拓磨先生にお話を伺いたいと思います。武田先生にとって、総合診療医とはどのような医師ですか。
身体的な問題だけでなく、心理的な問題、社会的問題を含めた包括的ケアをできる医師が総合診療医だと思います。
——仰る通りですね。心理的な問題、社会的な問題が疾患の原因や背景因子となっていることが非常に多いので、その点についてもケアできる診療能力、そして姿勢が総合診療医にとって何よりも重要ですね。武田先生が、総合診療医になろうと思った理由は何ですか?
正直に言うとアメリカのとある医療ドラマを診て、患者さんを適切に診断することの重要性を感じたことが一番の理由です。
——そうだったんですね(笑)。初めて知りました。いつ頃見られたのですか?
大学に入学して間もない頃ですね。知り合いに勧められて見たのがきっかけです。
——なるほど。私もERとか夢中で見ていた時期がありました。アメリカの医療系ドラマは本当によくできていますね。日本との医療体制の違いとかも参考になって興味深いですね。武田先生が新専門医制度の開始にあたって、当院の総合診療専門研修プログラムを選んだ理由は何ですか。
もともと当院で後期研修として2年間当院の総合診療科で研鑽をしていましたが、総合診療専門研修制度の開始と同時に当院でも同プログラムが開設されたので、専門医を取ろうと思いました。
——ありがとうございます。武田先生には当院の専門研修プログラムの第1期生として履修していただきました。これまでの総合診療専門研修の3年間でどのような診療科で勉強されましたか。
内科選択研修では、不整脈と糖尿病科を選びました。京都中部総合医療センターでは、総合診療科という立ち位置で研修をしていたので、科にとらわれず様々な症例を経験できました。
——これまで当院の専門研修中に経験した症例のうち、印象に残っている症例を教えてください。
一番記憶に残っている症例は、ご高齢の方で心窩部痛を主訴に来院され、胃カメラ・腹部CTでは異常はなかったのですが、側頭葉てんかんに伴う症状だということが脳波検査をして判明をし、抗てんかん薬で症状が消失したという症例の経験が一番記憶に残っています。
また、難治性の口内炎で来られた患者さんで特に皮疹は無かったのですが、抗デスモグレイン3抗体検査をして陽性と判明し、尋常性天疱瘡の粘膜有意型と診断したことが記憶に残っています。
——武田先生が腹痛から側頭葉てんかんの診断に至った症例については大変驚きました。どうして、側頭葉てんかんだと先生は考えたのですか。
患者さんが「苦しい、苦しい、良くならないのなら殺して欲しい」と訴えられていたのを鮮明に覚えています。症状は発作的に出現し、一見パニック発作のように見えました。しかし、ご高齢でパニック発作(障害)を発症するのは珍しいと考えました。精神科へのコンサルテーションを検討いたしましたが、一度立ち止まり発作性の経過を呈する疾患を再検討することにしました。画像検査で異常を認めなかったことから器質的な問題ではなく、機能的な問題である可能性を考えその一つとして側頭葉てんかんの可能性を想起いたしました。
——脳神経内科の先生もすごく驚かれていたと記憶していますが。
私は脳波検査にあまり詳しくありませんが、てんかんの部分重責発作という病態が強く考えられるということで、比較的めずらしい概念であるとのことでした。
——2例目の方も皮膚症状が何もないにもかかわらず、天疱瘡を疑った理由はなんでしたか。
難治性の多発する口内炎ということでまずは自己免疫疾患を想起しました。自己免疫疾患であれば、他にも身体的な異常が出現してもおかしくはないのですがこの患者さんにはみられませんでした。そこで少し発想を変えてみました。「口腔内も外界と接する皮膚の一部」と考え、皮膚の病気である天疱瘡の可能性はないだろうかと。
勿論、この患者さんの皮膚には異常を認めず、半信半疑ではありましたが抗デスモグレイン3抗体を提出してみたところ陽性だったというわけです。あとで症例報告を検索してみたのですが、この尋常性天疱瘡 粘膜優位型は内科ではなくまず耳鼻咽喉科を受診されるケースが多いようです。この患者さんも実は耳鼻咽喉科からの紹介でした。
——大変素晴らしいですね。先生は診断学に大変ご興味があると感じていますが、先生が診断学を好きでいらっしゃる理由はなんですか。
私にとって診断とは心理的問題・社会的問題・身体的問題を包括的かつ適切にアセスメントすることだと思っています。また、診断をする上で私は「治療機会の窓」を意識しています。治療機会の窓とは、関節リウマチの治療でよく使用される言葉で、「治療反応性にはある一定の限られた時期にのみ存在する薬剤感受性の高い時期、すなわちWindows of opportunity(治療機会の窓)が存在し、この扉を開くことができれば(この時期内で治療を開始できれば)、寛解のみならず治癒を目指すことも可能」という概念です。治療機会の窓を開けるためには、早期に適切な診断を行うことが不可欠であり、私が診断学を好きな理由でもあります。
——間違った診断をしてしまうと、患者さんの不利益は大変大きくなりますし、早期診断に結び付けることは、医師として非常に重要なことですね。
これまで週1回の外来研修をした診療科で、印象に残っている診療科はどこですか。印象に残っている症例やエピソードなども教えてください。
心療内科ですね。専門の先生の横について、患者さんの話をカルテに打ち込むという作業をメインにしていましたが、心理的な問題に介入するうえで、話を聴くことが非常に大事だということを実感しました。実際の症例やエピソードについて詳しくは述べられませんが、自分の外来にも生かしてみたいことが沢山ありました。
——どのようなことを生かしてみたいと思われましたか。
心療内科の疾患ではすぐに良い結果が得られない場合も多い印象です。「治療機会の窓」を意識するあまり、答えを急いでだそうとしてしまう自分がいて、心理的な問題が関わっていそうな状況では自制しています (笑)。コロナ渦の影響だと思いますが、内科外来を受診する患者さんの中で心因性疾患が占める割合が増えている気がします。他院の心療内科では予約患者さんが一杯で数ヶ月待ちということもあり、まずは内科外来を受診されるというケースもあるようです。時代のニーズとして、心因性疾患は総合診療医が診れるようになるべきだと思います。
——なるほど。外来患者さんの生活習慣病などに対する患者教育においても、すぐに答えを期待しないで通院してもらい、話を聴いていくということは重要ですね。総合診療を行う医師として重要なことを学んでいただいたと思います。
これまで、当院の連携病院で研修した診療科で、印象に残っている病院はどこですか。印象に残っている症例やエピソードもなども教えてください。
京都中部総合医療センターでは、初診外来をさせていただきました。紹介患者さんが多く来られるので、感冒のようなコモンディジーズは来られず、開業医さんが困った症例が送られてくるので、診断能力を鍛えるということで大変良かったと思います。
病棟管理は、自分自身で対応した外来患者さんや救急患者さんをメインに持たせてもらったので、無理なく症例を経験することができたと思います。
外来患者さんで経験した症例では、妊婦さんが激しい心窩部痛で来られた際に、HELLP症候群や急性妊娠脂肪肝を鑑別にあげながら病歴と腹部エコーにより胆石発作と診断できて、外科に紹介して保存的治療で経過を見ることになったことがありました。
他には、中年男性が食後に突然腹痛をきたして当直医に受診し胃カメラを勧められ、後日、私の外来を受診したというケースがありました。すでに数日経過して症状が改善傾向であったのですが、腹部所見に乏しく、発症様式から血管病変を疑って造影CTを撮ったら、腹腔動脈解離だったという症例がありました。問診をただしく聞くことが大事だと思いました。
——前医が診て数日経過した血管病変を診断するというのはなかなか思い切った判断だと思います。先生が血管病変を疑った根拠は何でしたか。
突然発症で消えることのない痛みでは血管病変を想起すべきと考えます。血管病変であっても狭心症のように疼痛が一過性で消失する場合など、例外も勿論ありますが。
——なるほど、おっしゃる通りですね。
宮津武田病院では、慢性疾患をメインにみさせていただいて、そのため状態が経過中に悪化するケースをしばしば経験しました。急性期病院のように検査があまりできない環境で、その時に総合診療医として診療の技量が試されると思いました。
例えば、透析中に眩暈をきたした患者さんに自院で頭部CTまでは撮影できたのですが異常はなく、近隣の急性期病院に搬送してMRIをとって脳幹梗塞と判明した症例がありました。眩暈も軽度で本当に脳梗塞かどうか怪しいところもありましたが、搬送すべきかどうか判断する良い経験になりました。
——たしかにそういう経験は中小規模の病院ですと多いですね。当直中とかでも私も何度も経験しました。
後は、病棟でけいれんを起こした患者さんについて、ジアゼパムで鎮静をして落ち着いたのですが、脳波検査まではできないので痙攣している様子や頭部CTで脳梗塞の痕を見て症候性のてんかん発作と臨床的に判断してレベチラセタムを開始し落ち着いたという経験がありました。地域によっては脳波検査ができない病院もあると思いますので、検査ができない中でのマネージメント力を鍛える良い経験になりました。
——専門医に相談できない、十分な検査もできないという環境で、実力を試される機会を多く経験できたということですね。総合診療医師に限らずすべての医師にとって非常に重要だと思いますが、総合診療医としてはより高いレベルで鑑別を考えて対応していきたいですね。
次に基幹病院での研修について伺います。武田先生が総合診療科専門研修中に、外来患者さんはどのくらい診ていらっしゃいますか。また、当直の回数や忙しさ、入院患者の受け持ち症例数は何名程度ですか。
当院の外来では20人前後ですね。そのうち新患は10人弱です。当直の回数は月2回~4回です。入院中の受け持ち症例は7-8人程度です。
——それほど忙しすぎず、適度な数の症例で経験が詰めていますね。武田先生が総合診療科専門研修中での学会参加や学会発表などのご経験はいかがですか。自己研鑽のための時間や機会は十分だと思いますか。
沖縄の総合診療学会で一度発表をしました。ビタミンB12欠乏による亜急性連合性脊椎変性症でした。菜食主義、萎縮性胃炎、PPI内服、抗内因子抗体陽性等さまざまなリスク因子を持っていた方でした。両手の痺れで発症し、脊椎のMRIを撮って診断を確定させたという症例でした。しばらくメコバラミンを筋注して症状の改善を認めました。
——学会発表もしっかり経験されていますね。先生はいつも貴重な症例を集めていらっしゃいますし、研修医教育にも大変時間を割いていただいており、大変素晴らしいと思います。医仁会武田総合病院の働きやすさはどうですか。
研修中は朝8時半に来て、Dutyは夕方4時ごろには終わっていたと思います。空いている時間は医学書を読んだり論文を読んで勉強するという生活を送っていました。また、子供が体調不良で急遽休まないといけなくなったときに、気軽に休みを取らせていただけるのは働きやすいポイントだと思います。
——私たちは他の先生方が休みを取りやすいように協力していますね。女医さんでも安心して働ける環境だと思います。また、最近は複数主治医制をとることもできますので、小さいお子さんがいらっしゃる方や介護が必要なご家族がいらっしゃる方でも、専門研修を続けて行けそうですね。
医仁会武田総合病院の同期、上司や研修医との人間関係はいかがですか?周りの方にはしっかりサポートされていますか?
分からない症例があったら、上司や科を超えて他の先生方にも気軽に相談しやすい環境が整っていると思います。自分が学んだ知識は後輩に積極的に教えて自分にもフィードバックするという関係性でやっています。
——おっしゃる通り、診療科の垣根を越えて相談しやすい環境が整っていますよね。医仁会武田総合病院では、検査も専門科コンサルトもやりやすく、たとえ連携病院での研修中にも気軽に連絡して相談しやすい環境があると思います。これまでの武田総合病院での専門研修は、先生のニーズにどの程度マッチしたものでしたか。
医仁会武田総合病院は専門科がそろっていていろんな診療科の専門医に相談しやすく、また、検査がしやすいので、最期まで診療が完結できるというのがメリットで、自己研鑽にとっては良いことだと思います。
この病院でトレーニングを積み、総合診療医として検査や専門科がそろっていない連携病院で、自分の診療能力をさらに高めていくプログラムとなっており、私のニーズにマッチした専門研修であったと思います。
——最後に、総合診療専門医になろうか迷っている研修医への先生方へ、また、当院での総合診療専門研修をお考えの先生方へ、是非メッセージをお願いします。
超高齢化社会で患者さんの抱える問題は複雑化しています。複雑な問題を適切に評価できる医者がこれからは求められます。総合診療専門医が増えることは、患者さんのため、ひいては社会のために繋がるのかなと思います。私ももっと研鑽を積んで、患者さんのため、社会のためになればと考えています。当院での研修の一番のメリットは、無理せず自分のペースで研鑽を積むことができる点だと思います。
——ありがとうございました。武田先生は3年間の当院での総合診療専門研修の中で、総合診療科専門医として大変大きく成長していただいたと感じております。
当院の総合診療専門研修プログラムは、症例数が多く、診療科や検査、コンサルト体制が充実している基幹病院での研修の後、過疎地の中規模病院や診療所での実地研修を1年半行えるようになっています。実地研修は段階的に小さな医療機関となっていくため、無理なく研修が進められますし、迷ったときには基幹病院の先生方が常にサポートできる体制を整えています。
指導医の先生方はみな優しく、診療科は違っても同期の先生もたくさんいらっしゃるので、困ったことは何でもご相談いただける環境です。もし、武田先生と同じく総合診療科専門医を目指される先生がいらっしゃいましたら、是非、ご見学にお越しください。