出口 靖記
- 部長
鼠径(そけい)ヘルニアを専門とした外来です
鼠径(そけい)ヘルニアは、昔から言われる「脱腸」という病気です。
鼠径部、つまり足の付け根の少し上、下腹部の筋肉には構造的に弱い隙間があり、ここから内臓が出てくるヘルニアになりやすくなっています。
鼠径部の周囲の筋肉が壁としての力を保っていれば、内臓が落ちて膨らむ状況にはなりません。内臓が出てくるのを抑えていた筋肉が、抑えきれなくなってくると、内臓が壁を押してくるように膨らんでくるヘルニアとなります。
年齢で筋肉が衰えたり、そもそも筋肉が弱かったり、体質が痩せ型であったり、腹部に大きな傷がつく手術を受けたことがあって筋肉の壁が引っ張られたり、脳梗塞や麻痺などで力の偏りがあると、内臓は弱い方向に出てくることになります。
男性でしたら陰嚢につながっている部分なので、どんどん圧迫が大きくなってくれば睾丸が腫れるということもあります。
小児の場合、先天的なものですので、生まれてくる前に、既に腹膜が外側に飛び出している状況になっていることがあります。それがそのまま袋として残っていると、そこに腸(女児であれば卵巣や卵管なども)が出てくるのです。
小児の外科手術では一番多い病気です。発症率は小児全体の1~5%と言われています。
お腹に腹圧がかかると、ぜい弱になった鼠径部が膨れてきます。仰向けになってお腹の力を抜き静かにしていると、へこんできます。
膨らみ方が大きかったり、内臓が大きく出てくると、自然にはへこみません。手で押さえてへこますようになります。
それでも戻り難いこともあります。こうなってくると、内臓が引っ張られますので、痛みを感じるようになります。
内臓が出たまま戻らない「嵌頓(かんとん)」状態になると、出口でとび出した内臓が締め付けられ、内臓に血が巡らなくなって痛んでしまう状況になることもあります。こうなると、鼠径部は緊満し強い痛みが生じます。これは緊急事態ですので、至急に手術しなければなりません。
基本的に(成人の)鼠径(そけい)ヘルニアは自然には治らない疾患です。
だんだん膨らみの程度が大きくなってきたり、症状が強くなってきたりします。お薬では治りませんので、治療をするとなれば、外科的治療(手術)以外に治療方法はありません。
ただし、上記の「かんとん」状態にならない限りは、必ずしも慌てて治療する必要はありません。
当院では、腹部に3か所、1cm程度の孔をあけて手術を行う、「腹腔鏡手術」を積極的に行っております。従来の方法(鼠径部を5~6cm切開して行う方法)と比べて、身体への負担が少なく、早く回復できて早く社会復帰できるといわれております。
他の持病で近隣の病院・診療所に通われている患者さんが、「腫れている」「出てくる」と症状を訴え、当科を紹介される方が多いです。また、長年ヘルニアバンドをされている患者さんが、外科的治療を希望して来院されることも多いです。
ケースとしては少ないですが、嵌頓(かんとん)状態となり、救急搬送される患者さんもいらっしゃいます。
かんとんの状態で来院された場合は、まず整復(出ている部分を戻す)試みます。整復できた場合も再発しやすいことをご説明し、できるだけ早めに予定を立てて手術をすることをお薦めしています。なお、整復を試みても戻らないケースでは緊急手術が必要となります。
腹圧が強くかかる「職業」、咳や便秘など腹圧が強くかかる「状態」にあると鼠径ヘルニアとなるリスクが高まります。
これまで寄せられた多くの質問のなかから、とくによくお尋ねいただく内容をピックアップし、Q&A方式でご説明させていただきます。
ヘルニア(脱腸)はどのようなものか、という質問です。
「脱腸」と聞かれたことはあっても、どういう病態であるか、ということまでご存知ない患者さんは多くいらっしゃいます。「腹膜は伸びやすく、その伸びやすい膜が袋のように飛び出したかたちになるので、そのなかに内臓が出たり入ったりします」と、絵を描いて分かり易くご説明しています。
メッシュ(網)で弱くなった腹壁を補強する手術(鼠径部切開、腹腔鏡)を行います。
弱い部分をメッシュで補強する手術を行います。従来は、鼠径部を5~6cm切開して手術を行っておりましたが、近年は腹腔鏡でも手術を行っております。当科では、いずれの手術方法にも対応しており、いずれも一長一短があるため、患者さんとご相談して治療方法を決めています。
多くの方が数日で退院されます。
当科では、基本的には手術の前日入院、手術後2泊 (4日間の入院) を標準としておりますが、当日入院、翌日退院(1泊入院・手術)も可能です。患者さんの希望を伺いながら、状態をみて対応しています。
軽い仕事は2~3日後から可能です。
個人差がありますが、多くの方が手術後、2~3日で仕事に復帰可能です。激しい運動をするのは2週間後ぐらいがめどになります。
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