稲本 俊
- センター長
乳がんを適切に診断し治療していくためには、高い技能と豊かな経験を持った医師・看護師・検査技師・薬剤師など多職種のスタッフが必要です。武田病院グループでは、グループ全体でこれら多くのスタッフを取り揃え、診断・治療にあたっています。
ここでは乳がんの診断に欠かせない各種の検査についてご説明させていただきます。
乳腺はX線撮影で白く映る性質があり、単に乳房を撮影しても白く映るがんや石灰化病変などを見落としてしまう可能性があります。マンモグラフィは乳房を二枚の板で挟み、薄く伸ばして乳腺の重なりを減らすことで病変をより発見しやすくし、初期症状である微細な石灰化や触診ではわかりにくい小さなしこりを画像として捉えることができます。当グループの検査では多くの女性技師が活躍しています。
超音波検査(エコー検査)では、病変の有無やしこりがある場合は大きさ、リンパ節への転移を把握します。また生検を行うにもエコーで正確に病巣を把握することが欠かせません。ここで重要となるのが機器の性能と術者の技量です。例えば5~8mmの初期の乳がんを見つけるのは相応の技量が必要となります。
乳がんと診断された方に対し、どこまで病変が広がっているか、マンモグラフィや乳腺エコーで見えなかった病変は無いか、反対側の乳腺には異常はないかなどを正確に診断し、確実な手術方法を決定します。とくに温存療法では、MRI画像を元に切除範囲を決めるなど、MRI撮影は乳がん治療において大変、重要な検査となります。
病理診断が必要な病変がみられた場合、CNB(コア針生検)もしくはVAB(吸引式乳房組織生検)を行います。
CNBはバネ式の小型キットで、VABは乳腺エコーを行いながら正確に吸引を行う生検装置です。VABはこれまで切除生検が必要であった病変も5mm程の切開で組織を採取することができるようになりました。さらにDCIS(非浸潤性乳管がん)と呼ばれるほとんど転移しない早期のがんも多数見つかるようになりました。
乳がんと診断された方に対し、リンパ節転移や遠隔転移がないかを診断してステージを決定し、適切な治療方針を選択します。また乳がん術後の経過中に再発はないかなどの診断や、再発された方の治療に対する効果の評価にも威力を発揮します。また乳がんとは関連のない別な悪性疾患が偶然見つかることもあります。
当院では、乳がんの進行度はどうか、どのようなタイプの乳がんか、遺伝的要素は関係していないかなどを調べたうえで、患者さん一人ひとりに一番適した治療法を一緒に相談していきます。
乳がんの手術方法としては胸筋合併乳房切除術、胸筋温存乳房全切除術、および乳房部分切除術(乳房温存手術)などがあります。この中でも現在では胸筋温存乳房全切除術に代わって乳房部分切除術が増えています。病変の大きさや広がりなどによって制約がありますが、病変が大きくても術前化学療法を行ったうえで乳房部分切除術が可能になる場合もあります。
乳房部分切除術の場合、切除のみでは組織の欠損によって乳房の変形をきたしますので、当院では周囲の乳腺組織や脂肪組織をうまく使ってなるべく乳房が変形しないようにしています。また皮膚の切開線もなるべく目立たないように乳房の外側や乳輪部分から手術します。
当グループではIMRT(強度変調放射線治療)「トモセラピーラディザクト」を導入しています。がん病巣を正確に把握する撮影機能に加え、360度全方位から複数のがん病巣へ放射線の照射治療を行うことができます。
乳がんは、ホルモン療法が効くタイプと効かないタイプ、ハーセプチンという薬が効くタイプと効かないタイプ、リンパ節に転移がある場合と無い場合、閉経前と閉経後、浸潤がんと非浸潤がんなど様々に細分化され、その性質に一番効果のある治療を選択するのが基本です。
当院では膨大な臨床試験に基づいた最新の日本乳癌学会のガイドラインやNCCNのガイドラインに沿って治療方法を患者さんと相談しながら決めていきます。
乳がんの約7割は女性ホルモンに反応して増殖します。この性質を利用し、女性ホルモンが乳がんの細胞にくっつかないようにする、あるいは女性ホルモンを減少させることによって乳がんの再発を抑えるのがホルモン療法です。使われる薬剤は閉経前と閉経後の患者さんでやや異なります。
乳がんの広がりに応じ化学療法(抗がん薬)は、①術前化学療法、②術後化学療法、③遠隔転移に対する化学療法に分けられます。
術前化学療法は、しこりが大きいため乳房温存療法が行えない人が術前化学療法を行うことでしこりが小さくなった場合に乳房温存手術ができる可能性が出てくることや、手術での切除範囲が少なくて済むことで、より美容性の高い手術ができる可能性があるのが大きな特徴です。
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