31.サルコペニア(筋肉減少症)と脊椎手術後の経過
- 2024.10.15
- お知らせ
Q.サルコペニアとは?
答えは、筋肉が減ってしまう状態のことを指します。
サルコペニアの診断は、筋力・身体機能・筋肉量の3つの要素から行います。
● 身体機能:6mの歩行速度が1m / 秒未満
● 筋肉量:生体電気インピーダンス法もしくはデキサ法(特殊なレントゲン撮影) で評価
■筋肉を使わないと脂肪に置き換わる???
体内の組織は、使わなかったり炎症が起きたりするとその一部が脂肪に置き換わってしまうことがあります。骨格筋はその代表的な組織で、使わないと一部が脂肪に置き換わってしまいます。
これを脂肪変性といいます。よって、筋肉を使わずに痩せてしまったことを筋肉量が減ったというのは大変わかりやすいのですが、筋肉自体が痩せていなくてもその中身が脂肪に置き換わっていても筋肉量が減ったと言えます。言い換えれば筋肉の質が悪いもの(中身が脂肪だらけ)になったことも筋肉量が減ったということとなります。
■筋肉が弱っていると、手術後どうなるの?
当院の研究では、腰椎狭窄症の手術を受けた患者さんにおいて、腸腰筋(おなかの中で、腰骨の横から太ももにのび、腰を支えたり、脚を動かしたりするためにとても重要な役割を果たしている筋肉)が痩せている場合、術後に「腰椎すべり症」を発症しやすいことがわかりました。
腸腰筋がしっかりしていると、腰を安定させる力が強くなりますが、腸腰筋が痩せてしまうと、腰のサポートが弱くなり、骨がずれやすくなるのです。手術を受けた後も、腸腰筋が十分に働かないと、腰に負担がかかりやすくなり、腰椎すべり症を引き起こすリスクが高まります。
■手術後の経過と筋肉の質
さらに、多裂筋(背筋の一部)の脂肪浸潤(筋肉が減って脂肪だらけになっていく)が多い患者さんほど、隣接椎間障害(隣にまた狭窄症がおこる)の発生率が高いことが判明しました。
■対策とリハビリ
当院では、手術の前に“せぼね”の画像検査や血液検査、超音波検査だけではなくサルコペニアかどうかの診断をするために生体電気インピーダンス法による筋肉量・質の評価(※写真)、歩行速度測定、握力測定を行っていただくようにしました。これらの術前検査で筋肉量の低下や質の低下、サルコペニアと診断された場合は、退院時までにサルコペニア進行予防のリハビリ指導や、外来通院時に栄養士による栄養指導を行なってもらうようにしました。
当院で使用している生体インピーダンス分析装置
InBody(インボディ)770
多裂筋はインナーマッスルの代表なので意識して鍛えないとなかなか上手く鍛えることはできません。専門のセラピストによるリハビリ指導が非常に有効です。
下のイラストは、一般的に腸腰筋を鍛える運動です。
また、サルコペニア進行予防には筋力トレーニングのみならず食事内容も非常に重要です。
簡単に言えばタンパク質摂取を多くすることが重要なのですが、腎機能低下、糖尿病、高血圧などその他のご病気を持っておられる場合は注意が必要で、管理栄養士により詳しく丁寧に指導してもらうことが非常に重要です。
■結論
サルコペニアの進行を防ぐことは、脊椎手術後の経過を改善するために重要です。
今後もこの取り組みが患者さんの健康に寄与することを期待しています。