30.悪玉コレステロールは本当に全部悪いの?

 

健康診断で「悪玉コレステロール(LDLコレステロール)が高い」と言われて、不安になられる方がいます。特に、高血圧や糖尿病、心筋梗塞の既往歴がない場合、判断に悩まれるかもしれません。LDLコレステロールについては、少し詳しく理解しておくことが大切です。

実は、コレステロール自体には「善玉」も「悪玉」もありません。コレステロールは体にとって大切な成分で、細胞膜の維持やホルモンの生成に必要です。このコレステロールを肝臓(工場)から全身の細胞に運ぶ「運送屋さん」の役割を果たしているのがLDL(低密度リポタンパク質)といわれるものです。

 

■LDLには「普通の運び屋」と「悪い運び屋」がある?

LDLはコレステロールを運ぶ役割(運び屋さん)を担っていますが、その中にリスクの異なる2種類のタイプがあります。

1.普通の運び屋さん(大きくて密度が低い lbLDL)
このタイプは、全身の細胞に必要なコレステロールを届ける役割を果たしており、特に悪性ではありません。いわば、「通常の運送屋さん」です。


2.悪い運び屋さん(小さくて密度が高い sdLDL)

問題になるのは、こちらの「小型で密度の高いLDL(sdLDL)」です。sdLDLは血管の壁に入り込みやすく、酸化されやすい性質を持っています。これにより、動脈硬化や心血管疾患のリスクが高まります。つまり、社会のルールを無視する「悪質な運送屋さん」と言えます。

 

どうやって「本当の悪玉」を見分けるの?

通常の血液検査では、この本当の悪玉であるsdLDLを直接測定することは難しいのが現状です。しかし、間接的に推定する方法があります。

それは、「中性脂肪(TG)と善玉コレステロール(HDL)の比率」、つまり割り算で、中性脂肪(TG)の値÷HDLの値 を計算することです。これをTG/HDL比と言い、この値が高いほどsdLDLの割合が高い可能性があります。

  • TG/HDL比が3.0〜4.0以上の場合は、sdLDLが多く、心血管疾患のリスクが高いとされています。たとえLDLが正常(140以下)であっても注意が必要です。
  • 2.0未満であれば、リスクは低いと考えられます。特に1未満ではほとんどが普通の運び屋さんで、特に心配はありません。

 

■TG/HDL比が高い場合はどうする?

もし「TG/HDL比が高い」場合、以下の対策を心がけましょう。

1.食事の見直し

糖質が多い食事をへらし、魚や鶏肉、大豆、卵などの良質なタンパク質を摂るように心がけましょう。
食物繊維が豊富な野菜を積極的に取り入れましょう。

2.運動習慣を整える

息が上がらない程度の運動、散歩などを継続しましょう。

 

■まとめ

悪玉コレステロール(LDL)が高いからといって、すぐに心配する必要はありません。しかし、sdLDLと呼ばれるリスクの高いタイプが多い場合は注意が必要です。食事や運動、生活習慣を見直しましょう。不安がある場合は、医師に相談して、適切なアドバイスを受けることをおすすめします。

 

文献
Biomedicines. 2024 Jul 5;12(7):1493. The Triglyceride/HDL Ratio as a Surrogate Biomarker for Insulin Resistance.
Intern Med. 2020 Nov 1;59(21):2661-2669. The Association between the Triglyceride to High-density Lipoprotein Cholesterol Ratio and Low-density Lipoprotein Subclasses.

 

脳神経外科 川西 昌浩

 

 

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