25.サル痘のお話
- 2022.10.03
- お知らせ
コロナの次はこれかというくらい話題になったサル痘ですが、当院神経救急部長の杉江医師にまとめてもらいました。
これを読むと、少し安心できますね。
■サル痘(Monkypox)のお話
本年の7月23日にWHOにより、サル痘に対して国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)を宣言しました。ほぼ同時期に日本国内でも感染例が報告されました。2020年に新型コロナウイルスに対しても、WHOにより同様に緊急事態宣言がなされましたが、果たして新型コロナウイルスと同様に、世界的に大流行するのでしょうか?
サル痘に対して緊急事態宣言がなされたとほぼ同時に、世界的に権威ある雑誌 New England Journal of Medicine 誌にサル痘に関する論文が発表されました。本論文(NEJM; 387: 679-691, 2022.)と 2019年に発表されたサル痘に関する総説論文(Infect Dis Clin N Am 2019; 33: 1027-1043, 2019.)の2つの論文を元に、サル痘について解説します。
■アフリカにおけるサル痘(Infect Dis Clin N Am 2019; 33: 1027-1043, 2019.)
サル痘のウイルスは1958年にヨーロッパのコペンハーゲンの研究施設で、ポリオワクチンの製造のために集められたシンガポールから輸入されたカニクイサルより分離されたため、サル痘と名付けられました。現在では主な宿主は齧歯類(rodents : リス、ネズミ、ビーバーなど)であることがわかっており、WHOもサル痘との名称変更を考慮しているといわれています。人間への感染は、1970年にザイール共和国(現在のコンゴ共和国)で9歳の子供の症例で初めて報告されとされます。WHOの報告によれば、1981年~1986年のサル痘患者発生数は338人、1996年~1997年にかけてコンゴ共和国での流行は511人と報告されています。
中央アフリカでは、内戦などで政情が非常に不安定で、国自体が非常に貧しく、リスなどを、いわゆるブッシュミートとして、食用に利用し貴重なタンパク質源になっています。リスなど解体する際、リスなどのサル痘ウイルスに感染した血液が、解体している人間の傷や粘膜より侵入し感染するようです。
潜伏期間は5~21日とされ、その症状は顔面および手足の末端に多く発生し、時間の経過で水胞から膿疱となり痂皮がみられるようになる発疹(rush)、発熱、けんたいかん、頭痛、筋肉痛、リンパ節腫脹などであり、発症後約2週間から4週間で症状は軽快するそうです。天然痘(Smallpox)とくらべ、サル痘は重症度や死亡率は低いといわれています。
■ヨーロッパにおけるサル痘(NEJM; 387: 679-691, 2022.)
ヨーロッパでは2022年3月よりサル痘の報告例が急激に増えました。それまではアフリカ大陸以外で発症し、報告されるのは非常に希な事だったようです。
New England Journal of Medicine 誌(NEJM; 387: 679-691, 2022.)では 2022年4月27日~6月24日の約2ヵ月の間に、528例の感染例がヨーロッパ中心にされたと報告しています。そのうち 99%がGay(原文のまま)で、95%がsexual activity(原文のまま)により感染したとされています。また41%が HIV(エイズウイルス)に感染していた報告されています。HIVに感染しても、発症を予防する薬が開発、使用されているため、HIV感染症はかつてのイメージの様に、不治の病ではないのかもしれません。入院を要した症例は70例(13%)で、そのほとんどが、耐えられない肛門痛がその理由でした。ヨーロッパでは、sexual health clinic(原文のまま)、HIV clinic(原文のまま)や、救急外来、皮膚科など受診することが多いと報告されています。
2020年初頭より全世界規模で感染に至ったCOVID-19感染症、いわゆる新型コロナウイスル肺炎とは感染形態、流行形態、規模も相当異なるウイルス感染症のようです。