19. 高齢者に多い背骨の圧迫骨折

高齢者に多い背骨の圧迫骨折(最近専門的には椎体骨折といいます)の治療についてのお話しです。

第4回のブログで『高齢者が急に腰痛を訴えたら背骨の圧迫骨折を真っ先に考えてください、急性期の診断にはMRIが有用です』と書きました。高齢者の一番多い圧迫骨折の原因は骨粗鬆症ですが、この骨折の症状は、様々で全く痛くない(いつの間にか骨折)状態から痛くて寝たきりに近い状態になる等様々です。大部分の方が自然治癒していくのですが、約2割の方はいつまでたっても治癒しないこともわかっています。

■圧迫骨折にはどのような症状のあらわれ方があるのでしょうか。

時期や骨の丈夫さ、何回折れたかなどで大きく4つに分けられます(図1)。

一般的には折れた直後には足のしびれや麻痺はありません。急性期に痛みで寝返りもできない場合(激痛型)、時間がすこしたっても寝起きや動くたびに痛む場合、慢性期になって足の力が入らなくなる場合、背中が曲がってしまってこれらによって背部の痛みが生じてくる場合です。

図1:圧迫骨折の病態(著者による分類)

 

■どのような治療があるのでしょうか。

昔からあるのが、体の軸を固定するコルセットやギプスを数か月着用する方法です。安全で大きな副作用などもありません。痛みが改善してきても背中が少しでも曲がらないように3-4か月付けておく必要があります。コルセットを装着することの是非や種類などに関してはいろいろな報告がありますが、直近の研究のまとめでは、装着した方がよい結果が得られるとされています。

 

■最近では骨セメントを入れる治療があると聞きましたが?

大きく分けると二つのやり方があります。

一つは針を刺して医療用の骨セメントを注入する方法、もう一つは針を刺した後、セメントを入れる前に風船(図2)やステント(図3、4)で背骨の中に間隙を作ってからセメントを入れる方法です。これらの方法は一長一短がありますので、担当医とよく相談して行うことです。

 

図2:風船(バルーン)を用いたセメント注入

 

図3:ステントをもちいたセメント注入

 

図4:ステントをもちいたセメント注入

 

■どのような人に骨セメント治療が効くのでしょうか。

急性期で寝返りもできないくらい痛い場合、また少し時間がたっても寝起きや体動時に痛みが続く場合には骨セメント治療によりこれらの痛みを軽減することができます。
逆に慢性期の背中が曲がってしまったための背中のいたみには効きません。また足の麻痺が出ている場合も一般的には骨セメント単独での治療では困難で固定術という手術を併用しないといけません。

 

■骨セメント治療の副作用にはどのようなものがありますか。

骨セメントが神経や血管に漏れることによる合併症がありますが、これらは本邦の熟練した医師が行えば極めてまれです。
これとは別に副作用とは必ずしも言えませんが、治療した背骨以外に再び圧迫骨折が起こることがありますので、手術後も十分な骨粗鬆症に対する治療が必要です。

骨粗鬆症性圧迫骨折は患者さんが大変多く、また病態もさまざまですので、これらに精通した医師に相談されることをお勧めします。

 

脳神経外科 川西 昌浩

医仁会武田総合病院チャンネル「圧迫骨折の治療法」
読売新聞朝刊(2022年4月29日付)

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