17.骨盤脆弱性骨折とは ~ 太ももの付け根の痛み-ひょっとして骨盤や仙骨の骨折かも~

以前は骨折といえばレントゲン写真でわかるというイメージがありましたが、高齢者ではレントゲン写真では明らかな骨折線がなくてもおれていることがあり(不顕性骨折 ふけんせいこっせつ)、そしてはっきりとしたケガなく折れていること(脆弱性骨折 ぜいじゃくせいこっせつ)があることがわかってきました。その一例が 恥骨や仙骨など骨盤まわりの骨が折れている骨盤脆弱性骨折といわれるものです。今回は当科の田中秀一副部長に説明してもらいました。


骨盤脆弱性骨折とは?

骨粗鬆症による骨強度 (骨密度と骨質) の低下が原因となり, 軽微な外力 (立位姿勢からの転倒か, それ以下の外力で歩行や寝返り等も含まれる) で生じる骨盤の骨折です。なお、骨盤は左右の寛骨 (腸骨・坐骨・恥骨)、後方の仙骨と尾骨からなる閉鎖環状構造をとり、後方の仙骨骨折と前方の恥骨骨折を合併することがよくあります。

 

頻度は?

背骨や大腿骨の脆弱性骨折は頻度も高く、よく知られています。これらと比較して、骨盤の脆弱性骨折は稀で 認知度が低いために診断がむずかしい場合が多いです。

症状は?

症状は多彩であり、腰痛・臀部痛・大腿部痛・股関節部痛・鼠径部痛などを呈し、立位や坐位で疼痛が増悪する特徴があります。骨折部位によっては下肢神経症状や膀胱直腸障害をきたしえます。症状の類似性からは脊椎骨折や脊柱管狭窄症、仙腸関節障害などの腰痛性疾患との鑑別を要します。

 

検査は?

画像検査では、通常のレントゲン撮影では骨折が判明しないことが多く (不顕性骨折)、診断のためには恥骨から仙骨まで含めた骨盤MRIやCTが必要となります。また、骨粗鬆症の検査として骨密度や骨代謝マーカーを測定することもあります。

治療は?

基本的には安定型骨折であり、高度の神経症状がない限りは保存的加療がえらばれます。具体的には、骨粗鬆症治療 (内服や注射薬) を中心に、安静、疼痛管理、運動療法、ブロック注射治療などがおこなわれます。不安定型骨折や神経症状の程度によっては除圧術や固定術などが検討されることもあります。

経過と転帰は?

症状の改善、退院まで数週間から2カ月程度を要することもあります。骨粗鬆性骨折は続発骨折のリスク因子であり、骨盤脆弱性骨折では骨折の連鎖や廃用性障害などにより1年後の施設入所率は25%にのぼるとされています。このため、早期の診断と治療介入が望まれます。

骨盤脆弱性骨折は高齢者の腰臀部痛や下肢痛, 鼠径部痛などの原因として鑑別すべき病態であり、 積極的なCT, MRIによる骨盤の評価が大切です。

文献
田中 秀一, 川西 昌浩, 他. 骨盤脆弱性骨折2症例の経験. 脊髄外科29 : 179-185, 2015
田中 秀一, 川西 昌浩, 他. 診断に難渋した骨盤脆弱性骨折-4症例報告―. 脊髄外科32 : 200-202, 2018

脳卒中センター(脳神経外科)
田中 秀一 副部長

 

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