10. 腰部脊柱管狭窄症のあれこれ ― 手術すべきかどうか
- 2019.08.30
- お知らせ
高齢化社会を迎えて最も一般的な腰の病気が、腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)です。
患者さんの数は非常に多く、手術方法も確立されており、脊椎を専門とする医療機関であれば手術の技術自体はそれほど難しいものではありません。ただ、対象となる患者さんは高齢者が多く、その手術適応(手術をするかどうか)については、いつも悩むところです。今回は、腰部脊柱管狭窄症とその手術について説明します。
腰部脊柱管狭窄症とは、どんな病気?どんな症状?
脊柱管とは背骨の中にある神経の通り道のことで、その中には背中、臀部、両足や膀胱、直腸などをつかさどる神経が通っています。この神経は、骨と靭帯によって周囲をぐるりと囲まれていますが、その骨や靭帯が分厚くなり腰部の脊柱管が狭くなることで神経を圧迫し足腰の調子が悪くなるのが、腰部脊柱管狭窄症です。
人間の腰は、伸ばす(反り返る)と靭帯が分厚くなり神経を押すようになるので、座っている時などは何ともないものの、起立や歩行により背部やお尻、足に痛みやしびれが生じるようになります。腰をかがめる(座る)とましになることから、間欠性跛行(かんけつせいはこう)と呼ばれています。
※跛行:何らかの障害により、正常な歩行ができない状態のこと
【典型的な腰部脊柱管狭窄症のMRI】
神経がはいっている管(脊柱管)は白く筒状に見えるのですが、黄色矢印で示した部位は狭くなっている(狭窄症)ことがわかります。
腰部脊柱管狭窄症の自然経過は?
軽症から中等度の患者さんのうち1/3くらいの方は、自然によくなることが知られています。したがって、運動麻痺がなく日常生活に支障を感じていない場合は、前述の間欠性跛行があっても、まず手術をしないでしばらく様子を見るというのがよいと思います。ただし、全体の1/3くらいの人は経過中に症状が悪化し、手術が必要になっています。
重症の患者さんは、初めから手術がされる場合がほとんどのため、保存治療(手術をしないで薬や注射による治療をすること)に関する研究がありません。
手術治療と保存治療の比較
軽症から中等度の患者さんの場合、手術治療と保存治療では、どちらかよいのでしょうか。結論から言いますと、現状では、科学的証拠に関する質が高い比較研究はありません。
これまでに報告されている比較研究の結果では、4年以内の経過では、足の痛みと腰痛ともに手術治療の方が優るとされています。10年位の長期成績でみると、足の痛みでは手術方法が優るものの、腰痛自体は手術治療と保存治療で差がなくなるとされています。これは加齢による変性(変化)が影響しているとされています。
経過観察中、急激に悪化する原因は?
腰部脊柱管狭窄症の経過観察中に症状が急激に悪くなった場合、通常は腰部脊柱管狭窄症のみが原因となっていることはありません。もし、急にお尻や足が猛烈に痛くなったり足が動きにくくなった場合はほとんどが狭窄症以外の病気、たとえば腰椎椎間板ヘルニアや脊椎の圧迫骨折、腰部ののう胞や出血などが同時に生じています。特に足の力が抜ける(足首が上がらない、膝折れする)などの場合は、早急に病院へ行かなければなりません。
画像検査で狭窄症といわれた場合・・・
近年、MRIなど画像検査の進歩により、腰の検査で狭窄症が認められるが、症状は軽く日常生活にはほとんど困らない・・・という方もたくさん見つかるようになりました。手術を含めて治療の必要があるかどうかは、あくまで日常生活や社会生活をする上でどれだけ困っているかを判断の拠り所にするのがよいと思います。症状が軽い場合、治療の必要はありません。
一人ひとりの患者さんでは、どう考えるべきか?
尿が出なくなった場合や足の運動麻痺が出たような場合は緊急で手術が必要ですが、前述した間欠性跛行や腰痛、下肢痛が主な症状の場合、患者さんによってそれぞれ考えていく必要があります。
超高齢者でも心肺機能は良好、かつ膝関節や股関節も問題がなく、腰部脊柱管狭窄症が原因で生活に支障をきたしている場合は、積極的に手術をお勧めしています。運動器の障害から移動能力がさらに落ちていくことをロコモティブ症候群といいますが、手術をすることにより、ロコモティブ症候群への移行を防ぐことができます。
一方、全身合併症がある場合や重症の膝関節症のように腰を治しても歩行する能力の改善が見込めないような場合(極端な肥満なども含む)では、手術をすることで歩行能力がどこまで回復するか、充分に吟味する必要があります。
Fabio Z Surgical versus non – surgical treatment for lumbar spinal stenosis
Cochrane Systematic Review – Intervention Version published: 29 January 2016
https://doi.org/10.1002/14651858.CD010264.pub2
腰部脊柱管診療ガイドライン2011 南江堂
脳神経外科 川西 昌浩