07. ヘルニアは、切らずに治る―腰椎椎間板ヘルニアの話―

ヘルニアとは体の組織の一部が、本来ない場所に飛び出た状態を指す用語で、腸のヘルニアや椎間板ヘルニアがよく知られています。今回は腰の椎間板ヘルニアについて説明します。
背骨は、骨が積み木を積み上げたような形状になっています。椎間板は背骨と背骨の間にあるクッションのような組織で、椎間板ヘルニアとは椎間板の一部がはみ出ていることを言います。

【図】左側が正常の状態、右側がヘルニアの状態。椎間板は骨と骨にはさまれた部分ですが、椎間板の中心部分(髄核と言います)が飛び出て、神経に当たっています。

ヘルニアは切らずに治す???

広告や本のタイトルなどで、『ヘルニアは切らずに治す』というキャッチコピーを見たことはありませんか。実は、正しい表現は『治す』のではなく、椎間板ヘルニアは何をしなくてもほとんどが自然に『治る』です。

ヘルニアは、どんな症状がありますか?

ヘルニアの症状は、無症状のものから腰痛や麻痺が出る場合まで様々です。MRIなどで大きなヘルニアが見つかってもほとんど症状がない場合もあれば、神経の敏感なところにヘルニアが当たると神経痛が走り状況によってはまさに激痛で夜も寝られないということもあります。
典型的な経過では、最初はぎっくり腰のような腰痛、しばらくしてからはお尻から太ももや脛(すね)、ふくらはぎなどに電気が走るような痛みが出てきます。ただし、急な腰痛だけの時は他の病気(大動脈解離など)もあり得るため、注意が必要です。足の痛みで足を伸ばせない、上を向いて寝られない(立っている方が痛みはまし)というような場合もあります。
時に足首や太ももに力が入らない(麻痺)、まれにおしっこが出ない(尿閉)などの症状が出ることがあり、これらの場合は早急に病院へ行かなければいけません。

【MRI写真】黄色い矢印の部分では、黒い丸い形の椎間板ヘルニアが飛び出して、神経(白い部分)を圧迫しています。

ヘルニアは、どのように治療するのですか?

痛みのみの場合は、前述の通り何をしなくても治るため、鎮痛剤の投与で痛みが治まるのを待ちます。かつては安静が必要とされていましたが、運動した方が早く治ることがわかっていますので、動ける範囲で動いてもかまいません。痛みが取れない場合は、神経のまわりや神経そのものに麻酔薬を入れて痛みを改善する方法(硬膜外ブロック、神経根ブロック)があります。
手術治療は、痛みが長期間続いて生活や社会活動(仕事、試合、受験など)に支障が生じ早期の復帰を強く望んでいる場合、麻痺が出ている場合、尿や大便が出ない場合(膀胱直腸障害)などに限られます。

どのような手術治療がありますか?

手術の基本は、神経に当たっているヘルニアを取る(減圧といいます)ことです。手術の方法は、ヘルニアの状況(大きさ、飛び出た場所など)によって様々で、背中を小切開して顕微鏡や内視鏡で見ながらヘルニアを摘出する方法、椎間板内にお薬(コンドリアーゼ)を注入する方法、椎間板にレーザーをあてる方法(健康保険適応外)などがあります。
ただし繰り返しになりますが、ほとんどのヘルニアは、何をしなくても自然治癒が期待される病気ですので、治療に関しては担当医師と十分に相談することが必要です。

 

脳神経外科 川西 昌浩

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