武田病院グループ理事長 武田隆久
【トピックス】
武田病院グループ 理事長 武田 隆久
皆さんは「保健医療2035」をご存知でしょうか。巷では高齢化のピークを迎える「2025年問題」が大きく取り上げられていますが、さらに10年後の社会に対応するための提言が保健医療2035です。20年も先の計画だと思われるかも知れませんが、実は今の医療・介護に関わる重要なテーマです。2016年度の診療報酬改定にもこの考えは盛り込まれており、既に動いている計画とも言えます。今回は、この提言をもとに地域における医療者の役割りと当グループのめざす方向性についてお話しします。
平等から公平へ応分負担へシフト
この保健医療2035ですが、急激な少子高齢化や医療技術の進歩など医療を取り巻く環境が大きく変化するなかで、2035年を見据えた保健医療政策のビジョンとその道筋を示すものとされています。
まずこのなかで我々が注目しているのは、これまで守られてきた皆保険制度の「負担」を変える、という内容です。提言では、「平等から公平に」と記されています。
どちらも、よく似た印象の言葉なのですが、内容は大きく異なります。「平等」だと、裕福な方もそうでない方も受診すれば「同じ支払い」です。これに対し「公平」は、裕福な方の支払い額は高くなり、そうでない方は安くなります。社会福祉の考え方が「平等」であり、税金の仕組みのように応分負担なのが「公平」と考えると分かりやすいと思います。つまり、医療や介護はこの応分負担である「公平」に変えて行こうというのです。
さらに注目しているものとして、「自律に基づく連帯」という項目があります。要約すると、〝病気になったから病院に〞という意識から、なるべく病院に行かなくてもいいよう、日常生活のなかで各自が健康づくりを行うよう意識づける。またその社会環境を整える、という考えです。
各自が健康を意識して暮らす社会をつくろうとの考えは大変、素晴らしいものだと思います。医療も介護も保険財政が厳しく、また従事者が不足しているなかですので、こうした意識改革は非常に重要だと思います。
ここで敢えて取り上げたいのは、これを一体「誰」が行うのか、ということです。
意識改革を行うのは医療者か行政か
通常、制度を変える場合、行政がこれを広め進めていくものですが、何故か医療は異なります。最前線は病院・診療所なのです。窓口支払いの増額、入院期間の短縮など、2年ごとの診療報酬改定で我々医療者は、患者さんに対し丁寧な説明をしてまいりました。患者さんやご家族が怒りをあらわにされることもあります。病院が儲けるためだと誤解されているケスも少なくありません。報道でも、「患者対医療者」という構造で取り上げられることもあり、正直、首を傾げることもあります。
先の「自律に基づく連帯」でも、「一人ひとりが保健医療における役割を主体的に果たすことによって実現されるべきもの」、「患者、医療提供者は、医療が希少資源であることを認識し、コスト意識をもって利用、提供することが大切である」と書かれていますが、実質的に仕組みをつくり進めてきた筈の〝行政〞が含まれていません。
これまでも、医療費を減らす取り組みが幾度も繰り返されてきましたが、その説明の最前線はいつも我々医療者でした。しかも今回は、「平等」から「公平」へと大きく仕組みを変えようとしています。このように進むのであれば、その周知を担うのが、実質的に我々医療者だけにならないことを期待したいです。死の在り方の部分では、啓発・教育活動を「保険者や自治体、かかりつけ医」が行う体制を確立すると明記しているのですから、関係する全てが行うものだと思います。
行政、地域の方、医療者皆が近づく取り組みに邁進
一方で、「幼児教育」「学校教育」「医学部教育」「転職時の再教育」「医療従事者の教育」などの文言が盛り込まれており、社会全体での意識改革を進めていこうとの趣旨が読み取れます。
確かに、この意識は重要です。現実に医療資源の不足は深刻で安全を確保した上での効率化は必須です。コンビニ受診や残薬問題など、解消に向けた啓蒙活動はもっと進めていくことが大切だと思います。
当グループでは従前より、幅広く地域の方への周知活動を行っています。「脳卒中にならないための市民公開講座」や「糖尿病市民公開講座」など大規模なものから、病院単独での「健康フェア」や「肝臓病教室」。さらには、看護の日に近鉄新祝園駅で町民や出勤途中の皆さんの健康チェックしたり、節分の日には木津屋橋武田病院で介護体験セミナーを開催するなど、地域に密着した取り組みも行っています。
いま、様々な医療・介護の課題の解決に向け、盛んに「地域包括ケア」が叫ばれています。このように幅広いチャンネルで地域の方、患者さんと我々医療者が近づくことが、その道筋となるのではないでしょうか。
どれだけ意識改革を叫ぼうと、どれだけ入念な仕組みをつくろうと、行政・地域の方・医療者それぞれが近づかなければ理解は進まないのではないかと思います。
当グループでは、本当の意味で地域の方の身近な存在となり、安心した暮らしに貢献できるよう、今後も努力を続けてまいります。ご協力を宜しくお願い致します。
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