武田病院グループ会長 武田隆男
武田病院グループ 会長
武田 隆男
■2025年問題に果たす病院の役割
熱波と豪雨災害、箱根や桜島などの火山噴火警戒による住民避難、アメリカ、スペインなどでの長期間にわたる大規模な山林火災等々、異常気象がつづいた2015年夏も去り、秋風が吹き始めてきました。季節の変わり目などは体調を崩す方が多いですので、くれぐれも体調管理に気をつけていただきますようお願いいたします。
異常気象といえば、今夏ほど暑さを痛感した日々も珍しく、気象庁の統計をみますと、京都で35℃以上の猛暑日は8月中旬までに21日もあり、毎年、熱波で話題となる群馬県館林や岐阜県多治見に次いで、高温地域ランキング6番目だったそうです。もっと世界には、上には上があるようで、米ワシントンポスト紙によると、「イランでは7月31日に気温46℃、湿度などを加味した体感温度が74℃に達した」といいます。
地球温暖化が招く影響は、SF映画の想像の世界だけではないようで、海水温の上昇による膨張と氷河の融解によって、この100年間に海面が19㎝も上昇し、今世紀中に最大82㎝も上昇するものと予測されています。海面が1m上昇すれば、日本でも9割の砂浜が消えてしまう恐れがあるといいますから、他人事ではなく、身の回りで余分な熱を排出せぬよう考えているところです。
さて、医療界に目を向けますと、相変らず国の医療施策に翻弄されているのが現状です。団塊の世代が75歳以上となり、高齢化がピークを迎える「2025年問題」が、医療分野にも大きな影を落としているといって過言ではありません。慢性的な病気を抱えておられる高齢者に対して、「治す医療」から「治し、かつ支える医療」へ大きく軸足を移すというのです。
高齢者が、できるだけ健康な状態で暮らせるようにする。そのために、高齢者が病気や要介護状態になった場合には、地域で必要な医療や介護が受けられるための体制整備、医療・介護の質と効率化を図る、というのが指針です。「社会保障充実のため」と、美しい御旗を掲げていますが、実際は、医療費を削減して国の財政負担を軽減させることが最大のねらいであることはいうまでもありません。
昨年の診療報酬改定も、2025年に向けた布石とみられます。一つは、在宅医療の質的な向上とともに、医療・看護・介護のチームによる地域完結体制づくり。二つ目は、急性期病棟の削減により在宅医療へのシステム構築を確立することにあります。しかし、現実問題として、いつ何時発症するかもしれない疾患に対して、24時間対応で適切な治療を施せる急性期医療こそ、早期に機能改善を目指し、廃用症候群を予防する重要な役割を担っていることは誰もが知るところです。
さらに、急性期病院に付設のリハビリテーション施設とスタッフが適切なリハを行うことによって、患者さんを回復期や在宅へつなぐ重要な使命となっているのも事実です。リハビリに関わる時間的制限がある中で、呼吸器リハや誤嚥防止、在宅へのスムーズな移行に向けての連携を構築するシステムづくりなど、急性期病院の役割は今後ますます重要になるものと確信しております。
いずれにしましても、地域医療支援病院の康生会武田病院をはじめ9病院、多くの高齢者福祉・サポート施設を運営する武田病院グループとしましては、「2025年問題」への国の方針を受けている京都府など行政の要請を避けて通るわけにはまいらず、24時間対応の訪問看護ステーションや、地域包括支援センターのさらなる充実などに、懸命に取り組んでまいります。
頭の痛いもう一つは感染問題です。私自身、1999年に日本病院会副会長に選任された際、最初に取り組んだのが感染問題でした。まず「院内感染防止対策ハンドブック」を作成し、教育機関など関係機関に配布しました。学校でのインフルエンザの流行、高齢者の肺炎などに対する医療スタッフのマスク着用や、重症患者さんの隔離対応など、国民の感染症に対する意識が高まり、病院の院内感染防止の重要性が極めて高まりました。
その他、院内感染症予防のために、ICS(infection control staff)の養成のために感染管理講習会を毎年開催、会員病院から多くの要員を養成が実現できましたし、京都私立病院協会の会長(1999年)の時にも、日本病院会と協調にICSの養成や、ICTの小規模病院での構成運営を図りました。現在も各病院で活かされております。
「2025年問題」と「院内感染問題」、いずれも、医療機関にとっては緊急性を要する大切な事項です。武田病院グループ全職員一丸となって、日常業務とともに、新たな目線での問題提起と、その実践にまい進してまいりたいと思っております。
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