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たけだ通信 No.91 (2月発行)

武田病院グループ専務理事 武田隆司

発気楊々

photo_senmu.jpg【エッセー】
武田病院グループ 専務理事
康生会武田病院 理事長・院長
 武田 隆司

■発気楊々

先日、大相撲における老舗部屋での力士暴行事件で、前親方と数人の兄弟子が傷害致死容疑で逮捕されるというショッキングな事態が報道された。

大きな夢を抱き、大海に出でることなく無念の逝去を遂げた若者の冥福を祈りたい。

私が幼少の頃、テレビのチャンネル権を独占していた祖母は夕方になると決まって時代劇の再放送を見ていたのだが、相撲の場所中は必ずNHKにチャンネルを合わせていた。

当時の非力な私は成すすべなく隣に座ってNHKをぼんやりと眺めていたのだが、丁度それは再放送のアニメが放送される時間と重なっており、子供心にはこの相撲という競技がとても迷惑なものに感じていた。

高校生になった頃、プロレス界にタイガーマスクという大スターが彗星の如く登場した。

彼はそれまで誰も見たこともなかったような空中殺法を駆使して、一瞬にして日本中の若者を虜にした。少し成長し、チャンネル権を主張できるようになった私も、ご多分に漏れず金曜日の二十時になるとテレビの前を独占したものだ。(メキシコから来たはずで国籍不明のタイガーマスクが突然日本語を喋った時にはビックリした!)

当時は思春期でもあり、プロレスラーの分厚い胸板や太い腕に憧れて、モヤシのような我が肉体を改善すべく腕立て伏せやエキスパンダーを始めたのもこの頃だ。しかし当時は食べることが苦手であったので、結局力持ちのモヤシになってしまった。

憧れの対象であったプロレスラーに対して、相撲取りというものは如何にも肥満体型であり、取り組み後のインタビューでは何を話しているのかさっぱりわからず好感の持てる対象ではなかった。

ところがある日テレビを見ていると、精悍な顔つきに浅黒い肌、一見してプロレスラーとは比較にならない鎧のような筋肉を身に纏い、自分の何倍もある力士を片手でブン投げる男の姿が目に入ってきた。

昭和の大横綱・千代の富士である。

この日を境に突如として大相撲ファンとなった私は、以後その千代の富士を引退に追いやった名横綱・貴乃花がおかしな整体師に洗脳されてワイドショーに出演する方が多くなるまでの間、相撲を見続けた。

千代の富士の歴代二位となる連勝記録が五十三で途切れた日は、友人の部屋で鍋をつつきながら「東海道も五十三...これも何か意味があるのだよ」などと意味のない会話で杯を交わしたものだ。

今となっては、現役時代の千代の富士・貴乃花両横綱の華のある土俵入りを間近で見ることができたのは心の財産である。(とても見るに耐えられない横綱土俵入りも沢山あるので)

千代の富士の次に夢中になったのは遅咲きのヘラクレス・大関霧島だった。一日に二十個の卵を飲むことをノルマとしていたとはいえ、今思えばいくらなんでも不自然なほど急激に発達した筋肉には若干疑問の余地もあるが、見るものを圧倒する、筋肉の要塞を思わせる身体の割りには「出し投げ」という地味系の得意技で地味に勝ちを拾ったり、かと思えば三百キロ近い巨漢・小錦を本気で吊り上げようとしたりする一貫性のなさも私のメガネにはかなっていた。

過日、相撲は八百長という記事を書いた週刊誌を発行する出版社を相撲協会が提訴するという何ともドロドロした報道があった。

しかし...これがよくわからない。提訴するということは誰かが誰かに不利益をもたらしたということだ。この場合、週刊誌が大相撲界のイメージを損なったということか?ただ、恐らくこの訴えは記事の内容についてであり、では大相撲は真剣勝負かというと...。

少し離れて、観衆や聴衆は相撲が真剣勝負でなければ不利益を被るのか?いや、たぶんそこに拘る人は殆どいないだろう。

あえて言えば、相撲が八百長で迷惑を被るのは、こうした娯楽に最大のタニマチであるNHKが血税をドンドン注ぎ込む。こうした事態に対して、怒った国民がNHKを相手に提訴という話なら...私的にはまだ納得できる。大人気ないと何かと批判の多い橋下大阪府知事の怒りも、そういう意味ではわからなくもないといった所だ。

テレビ局といえば、昨年末にかけてボクサーの亀田兄弟に対するバッシングは凄かった。

彼らの言動は確かに目に余る。個人的に彼らを好きか嫌いかに分類すれば、嫌いの上に大を十個くらいつけたいほどだ。

しかし、それまで年端の行かない彼ら子供を英雄のように持ち上げていたテレビ局や芸能人が手のひらを返したようにバッシングに同調する姿というのは、これも嫌悪感を抱く。

ところで、この兄弟は正式なトレーナーに教えられることなく、家庭内ではカリスマ的な父親の言うことだけを信じて世界チャンピオンまで登りつめた(というシナリオ)。

これをマスコミは家族愛と持て囃していたのであるが...まぁそれは私にとって興味がないことなのでどうでもいい。

興味があるのは、子供である以上、常に恫喝を繰り返す非常識で理不尽な父親に当初は恐怖心を覚えていたであろうに、いつの間にかそれが尊敬に摩り替わって行った部分だ。

これは怪しげな新興宗教による怪事件が取り沙汰される度に話題になるマインドコントロールと同じ原理である。

相撲界には「ムリへんにゲンコツと書いて兄弟子と読む」という有名な言葉がある。

現実の話として、プロの競技者として成功を目指す以上は、不当に押さえつけられたことさえもバネにできる強い精神力がなければ上には行けない。

そういう意味で、稽古中の「可愛がり」は相撲に限らず悪い面ばかりではない。しかし今回の悲劇は亀田家にせよ、時津風部屋にせよ、指導に当たる者が事の良し悪しを理解できていなかったことだ。

子供の目前で他人を恫喝し、悪言を浴びせかける。酔った勢いで凶器を叩きつけ、弟子に暴行を指示する。このような人間が未来ある若者の指導をして良いはずがない。


これは格闘技やスポーツに限ったことではない。上に立ち、後輩に指導をする立場のものは人間として自分を律する部分がなくてはならない。

t-tsushin91.senmu1.jpgそう考えると今の日本という国がどんどん悪い方向に向っているのも何となくわかる気がする...。

え?武田病院ですか?

大丈夫です。この四月には新しい院長を迎えて立派な指導者の下、この笑い飛ばすしかないような非常に厳しい医療情勢の荒波を乗り切って行く所存です!

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