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たけだ通信 発行号

武田病院グループ会長 武田隆男

今、いのちの尊さを思いつつ

photo_kaicho.jpg【エッセー】
武田病院グループ 会長
 武田 隆男

■今、いのちの尊さを思いつつ

昨年三月十一日の東日本大震災による大津波や、東電福島第一原子力発電所の爆発事故災害への復旧が一向に進まず、被災者の皆さまの一日も早い、元通りの暮らしを心より念じていますが、今、大陸からの日本包囲網というか、何やらきな臭いニュースがしきりに聞かれます。覇権主義のロシアは北方四島の領土支配の明確化のために、メドベージェフ首相自ら訪問し、島にロシア名を付ける方針を示すとともに、積極的な開発への道筋をつけつつあります。同じように、李明博(イミョンバク)韓国大統領も、国際法に反して一方的に設定した李承晩ラインによって自国領土とした島根県・竹島に上陸し、付帯施設の建設など実効支配をこれ見よがしに続けています。

何より、経済成長著しい中国は、東シナ海一帯で軍事訓練や大量の漁船を示威航行させており、フィリピン、インドネシアやベトナムなどと大陸棚境界線でいやがらせを続けています。その矛先は、歴史的に日本固有の領土と確定している沖縄県・尖閣諸島の国有化で日本にも向けられ、東シナ海と同様の行動が展開されており、対応を少しでも誤れば、泥沼の対立に至らないとも限りません。

軍人だった父の影響もあって、陸軍幼年学校を目指していた戦前派にとって、戦争の悲惨さと、戦後復興の苦難を思い出すのも辛いのです。今後の動向を注視しましょう。

しかし、領土の問題でへなへなと弱腰で、外交をやる事は許されません。自国の財産を守るのが政府の役割で、国民全体の願いです。

人のいのちといえば、近頃、見知らぬ人への通り魔的な殺傷事件や、若いカップルによる子供に対する虐待と、その結果による放置死、学校でのいじめによる自死などが目立ちます。虐待という行為は、自分自身が過去に両親から同様の扱いを受けた、その反動によるものとの研究が報告されていますが、それだけでしょうか。また、いじめという行為は、単独で行えば、多分それは犯罪になり、集団の中だからこそ優越感の誇示という、真の強さの表現を誤った、幼児的行動にすぎません。

行き過ぎた行動の一歩手前で止まる勇気、逆に、その行動を自分が受ける立場になればどんな思いをするのか、他人へ思いやる心の優しさの欠如が、今の世に蔓延しているように思えてなりません。こういった人としての情操や心根は、学校ではなく、家庭でしか教えられないものと考えるのは私だけではないはずです。

人のいのちを預かる医療者として、自死や虐待を受ける人たちに、何か救いの手を差し伸べたいものと願っています。現場である学校の教師をはじめ、関係者のまっとうな智識と研究や、学者の方々の広い研究を一時も速く、深めていただきたいものです。

閑話休題、私ども医療環境は、相変わらず厳しいのが現状です。

2012年度の診療報酬改定で、野田政権は、昨年末に0.004%の引き上げ方針を決定、医師の技術料などにあたる「本体部分」は1.38%の引き上げとなりました。全体として前回に続いてプラス改定となったことや、入院・入院外の配分があらかじめ決定されなかったことを評価したいのですが、引き上げ幅が極端に小さく、時々刻々、向上する最新機器の導入や人件費の高騰に、とても追いつかないのが実情です。

毎年、OECDが発表している加盟各国の医療費の対GDP比率(2009年度)を見ると、日本は三十四カ国中十六位の9.5%と低いのに、平均寿命は世界一を維持し続けています。国民皆保険制度の力は無論ですが、日本の多くの医療機関の従事者が、病院業務の効率化を図るため、たゆまない努力を重ねているからにほかなりません。

今春、武田病院グループの広報誌『たけだ通信』の発刊100号を記念して、聖路加国際病院の日野原重明先生、作家の瀬戸内寂聴先生と私とで鼎談のひと時を持ちました。日野原先生が百歳、瀬戸内先生が九十歳で、私も八十歳と絶妙のタイミングでの、楽しい座談となりました。

その中で、日野原先生は小学校で教鞭をとられ、「いのちとは何か」を子供たちに教えたり、童謡や童話を創作中であることを話され、「いつも新しいことに挑戦していれば歳はとりません」とおっしゃいました。瀬戸内先生も、東日本大震災の直後から、腰部骨折という大けがをものともせずに現地に入られ、心の病に悩む人々へ安らぎと癒しのメッセージを贈り続けられていることを、人として当然の行為として話されました。

私も両先生に負けないよう、好きな言葉である、生きている間は直面する事々に懸命に立ち向かう「一生懸命」に、また、地域医療という業務を一つ所に懸命に働く「一所懸命」に、3000名のグループ全職員と一緒に頑張ってまいりたいと思っております。

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