武田病院グループ会長 武田隆男
【エッセー】
武田病院グループ 会長
武田 隆男
■新年に思う
政権交代など昨年の2013年は、国内外ともに多事多難、内憂外患の1年でしたが、終盤になって、明るいニュースが相次いで飛び込んできました。尖閣諸島をめぐって中国が、日本固有の領海を含めた広大な防空識別圏を設定するという「外憂」は相変わらずでしたが、56年ぶり2度目となる2020年東京オリンピック招致決定など、幾つかの喜ばしい「内歓」が、私達の沈んだ気分を吹き飛ばしてくれるようでした。
日本でのオリンピック開催は、長期にわたった景気低迷からの脱却を下支えすることは間違いありません。
オリンピック景気による雇用の伸びは15万人超、開催までの7年間で150兆円の経済的効果と推計する経済アナリストもあるほどです。それとともに、薄れつつある日本を愛する心に、国民誰もが思いを馳せる一助にもなることでしょう。
経済活性といったハード面での「内歓」もさることながら、昨年6月に、日本人の心の御山である富士山が、ユネスコ(国連教育・科学・文化機関)の世界文化遺産に登録されたことと、年の瀬の12月5日に「和食 日本人の伝統的な食文化」がユネスコの無形文化遺産に登録されたことは、衣食住の"和の文化"発祥の地である京都が、かねがね推奨してきたことだけに喜びもひとしおです。
日頃から野菜を中心とした食生活を心がけている(?)医療に携わる者として、脂質を主とした日本人の食生活の急激な変化には、いつも心を痛めておりました。ご飯と汁と副菜のおかず、漬物という「一汁三菜」が、お膳を囲んで家族とともにいただくのが、ありふれた食事の風景でしたが、戦後の生活全ての面での欧米化とともに、炭水化物の多いお米がお膳から姿を消し、小骨の魚など食卓に上ることも、うんと少なくなってしまいました。
創業約300年の老舗料亭『いもぼう平野家本家』女将の北村明美さんは、世界遺産登録でのテレビの取材に対して、「日本は周囲を海に囲まれ、海からは昆布やワカメ、鰹節、いわしの煮干し、山からは椎茸など"うま味"と"風味"の出汁(だし)が、和食料理の基本です」と話しておられました。
栄養や食物学研究でも、出汁には、うま味成分であるグルタミン酸、イノシン酸、グアニル酸、リン酸が多く含まれているほか、ビタミン類やヨウ素といった物質が疲労回復や体の活性、胃の働きを活発にすることがわかっています。この時だからこそ、日本の伝統文化、食生活を見直す、いいきっかけにしたいものです。
さて、医療の世界を取り巻く環境は、心配に満ち溢れているのが実情です。アベノミクス(安倍経済戦略)の恩恵は、重工業や公共工事などに振り向けられるだけでは困るのです。医療・福祉の充実を真剣に考えていただきたい。医療職は約300万人であり、個々人の収入を上げることは全日本人の賃金を増やすことです。又、医科大学又は医学部を新設することは無駄ではないでしょうか。80ある医学部で定員1人増やすだけで、1校分の医師は育てることができます。又、消費税についても、病院の損税は、無視されている事に医療を育てるという言葉に疑問を感じます。一方「規制緩和」の推進として「持ち株会社病院」の検討も始まっています。医療と介護施設の効率的な配置を促すため、医療法を改正し、地域の複数病院をホールディングカンパニー(持ち株会社)化し、非営利法人での施設運営を推し進めようとするものではないでしょうか。今年は診療報酬改定が行われますが、上向き景況が医療分野に反映されるかどうかは疑問です。
ましてや抑制の方向が打ち出されているようですが、また医療崩壊の言葉が脳裏を過ぎます。
今年は午(うま)年。働くことへの汗を厭わない「汗馬の労」のことわざがあります。才知才能に富み、活動的チャンスにも恵まれ、運気低迷期の後でもすぐに上昇するそうですが、反面、気分に左右されるきらいがあるようです。聞く耳を持たない「馬耳東風」は、医療現場ではあってはならず、職場の仲間や患者さん、ご家族の皆さんの声にしっかり耳を傾け、各職場の一層の業務活性を図っていただくことを願っております。
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