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アスニー講座 からだを知ろう

アスニー京都で開催される、武田病院グループのスタッフによる健康講座です。

※医師やスタッフの肩書き/氏名は掲載時点のものであり、現在は変わっている可能性があります。

2016.07.27 腸内細菌について

医仁会武田総合病院
消化器センター センター長
松山 希一 氏

■腸内細菌(フローラ)とは
フローラとは「お花畑」という意味で、腸内細菌は無造作にバラバラに住んでいるのではなく、腸の中でいくつもの集団を作って住み分けています。腸の中には、約1000種類の100兆個の細菌がいるとされ、便にもその細菌などの死骸が大部分排出されます。 医学や技術の進歩で最近では腸内細菌の研究が飛躍的に進んできており、人それぞれパターンが決まっていて、指紋のような役割をすることがわかっています。

☆有用菌......食物繊維を発酵させて短鎖脂肪酸を産生し、体にとってよい働きになる菌。
☆有害菌......短鎖脂肪酸を産生できない菌で、食中毒などを起こしたりする体に悪い働きを及ぼす菌。
☆日和見菌...場合によっては悪影響を及ぼしたり、良い働きをしたりする中間の菌。

●食物繊維と腸内フローラ
腸内フローラは何もしなければ一生涯変わらないといわれていますが、食生活を通して変えることもできます。つまり、有用菌の働きを有効にする食生活をすることによって有害菌を減らすことが大切なのです。一番有効な食品として、食物繊維があげられます。食物繊維をたくさん食べることで、腸内細菌を変えることができるのです。食物繊維には水溶性と不溶性の2種類があります。特に水溶性の食物繊維は有用菌のえさになり、腸管の炎症を抑制する酪酸、食欲を抑制する酢酸、アレルギーを抑制するプロピオン酸などの短鎖脂肪酸が産生されます。ごぼうやこんにゃく、ヤマイモ、昆布、わかめなどに多く含まれています。一方、不溶性の食物繊維は、便を増やして出しやすくする効果があります。水溶性のように水に溶けず、便の成分として排出されます。日本では、食習慣が変わったことで食物繊維の摂取量が低下していますが、食物繊維をたくさん取ることで、糖尿病や心筋梗塞の発症が抑えられるという事実もあります。動脈硬化の予防となる要素があるので、積極的に水溶性の食物繊維を取って欲しいと思います。

■腸内細菌と疾患
●肥満
ダイエットをすると、バクテロイデスという菌が増殖することが知られています。肥満者の糞便を被験者に移植すると、一年ちょっとで15キロ太るという実験結果があるように、肥満者の便には太りやすい菌がいるため、それが肥満の一因になるということがわかりました。実際に、やせた人の便を肥満者に移植するとやせてきたという報告も出ています。このバクテロイデスなどの腸内細菌がいても食物繊維を取らなければいけないのですが、短鎖脂肪酸を作ることで、全身の代謝が活性化されてやせるわけです。

●糖尿病
血糖コントロールの良好なグループで発症リスクの高い人を調べると、アッカーマンシア菌が多く存在しており、フランスの研究結果でも、糖尿病の人にはアッカーマンシア菌が減少していることがわかりました。このことから、アッカーマンシア菌がいることで糖尿を防げたり、良くしたりできるのではないかといわれています。腸内細菌が食物繊維と腸細胞を刺激することですい臓に働きかけるインクレチンを分泌し、インスリンの分泌を促してくれるため、糖尿病が改善するのです。腸内細菌を利用して、糖尿病を治そうというプロジェクトが世界で進んでいます。

●目尻のしわ
大豆の成分であるイソフラボンなどを腸内細菌が変化させると、女性ホルモン作用を持つエクオールを産生します。これはいろんな作用を持っていて、更年期障害やメタボリック、特に美肌効果があるため、目じりのしわが取れるといわれています。近い将来、製品になれば、大豆と一緒に食べることで肌がきれいになって目じりのしわが取れる時代がくるかもしれません。

■糞便移植
●偽膜性大腸炎
抗生物質をある期間飲み続けると、抗生物質に耐性をもつクロストリジウムという細菌が増殖し、腹痛や下痢、発熱などの症状が出る怖い病気です。抗生物質の投与を中止しても症状が治まらない場合、バンコマイシン等の薬や点滴などで脱水症状を改善して様子を見ます。日本では薬をやめることで治ることがほとんどですが、欧米では今までの治療で効果がなく、死に至るような菌もいるため、糞便移植に期待がよせられています。糞便移植とは、健康な人の便を移植することで、腸内環境を正常化して感染症を克服する治療法で、1700年前にこの治療法が存在していたという文献があるほどです。方法は、おしり、もしくは鼻から内視鏡を使って腸内に直接注入します。難治性の腸炎などの場合、従来の治療だと2、3割しか効かないところが糞便移植では80~90%治るという欧米での実験データが出ています。将来的にはいろんな病気に効く可能性があるすごい特効薬になると思います。

■腸内細菌を改善して長生きしよう
カロリー制限をすると長寿遺伝子で知られるサーチュイン遺伝子が活性化され、長生きできるといわれています。それにも腸内細菌が関わっているという研究もあります。健康のために多種多様な腸内細菌を取り揃え、いろんな働きがあるため一つだけ増やせばいいというわけではありません。いろんな有用菌を腸内に住まわせ、水溶性食物繊維や発酵食品を積極的にたくさん食べてもらい、適度に運動をすることでストレスのない生活を送ってもらえると、みなさんの健康につながると思います。

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