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健康相談Q&A

このコーナーでは、世間の関心が高い疾患を皆様にわかりやすくご紹介します。 読者の皆様からのご質問に答えていきます。

※医師やスタッフの肩書き/氏名は掲載時点のものであり、現在は変わっている可能性があります。

2016.09.12 乳がんについて・がん免疫療法について/たけだ通信110号より

康生会武田病院 乳腺外科 副部長 松谷祟弘

乳がん事情について

近年、女性の乳がん罹患者数は、年間約 7万人を超え、年々増加の一途をたどっています。乳がんは、12人に1人が罹患すると言われおり、他のがんと比較しても群を抜いて最も多い疾患です。年齢別の罹患率は 40代にピークを迎えます。
この乳がんの増加には、食生活の欧米化、晩婚化に伴う出産の高齢化などのライフスタイルの変化が大きく影響しています。この傾向は、今後も変わらないため、乳がんは、ますます増え続けると予想されます。社会において重要な役割を果たす年代の女性にとって切実な問題です。

乳がん治療の術式について

2013年 7月よりシリコンを用いた乳房再建に対し保険が適用されるようになりました。乳がんの治療と同時に、整容面への治療が保険診療内で完結しやすくなったことの意義は極めて大きいと言えます。
この保険適用の開始に伴い、乳房切除+乳房再建という術式を選択される患者さんが増えています(術式の流れはイラスト参照)。私にとって根治性と整容性のバランスが最大の課題です。
この乳房再建治療は、乳腺専門医と形成外科専門医の両者がそろう、限られた認定施設でのみ対応が可能です。当院では、私自身が乳腺専門医かつ形成外科専門医でもあるので、乳房のトータルケアが実現可能です。

乳がん術後の治療について110_qa3.jpg

乳がんの術後補助療法における進歩には、目まぐるしいものがあります。従来の抗がん剤に加え、新しい抗がん剤(分子標的治療薬)の登場により、治療成績の劇的な向上をもたらたしました。これらの個別化治療とも言われる細分化された治療戦略は、患者さんにとって人生を左右する重要な課題です。
しかし、女性にとって精神的苦痛を伴う抗がん剤による脱毛など心理面への配慮も重要となります。病だけを治すのではなく、人を癒す、これが医師に求められていることと思っています。

今後の目標

乳房再建治療のできる乳腺外科医が、検診~診断~治療~再建~術後管理に至るまで全てを担当致し、女性の健康を全力で守ります。
私のライフワークは、"乳房変形をきたさない乳がん治療" です。すなわち、乳がん術後の乳房変形を最小限にとどめる乳房温存手術、もしくは乳房再建を見越した乳がん手術を、術前の段階から検討することが最も重要と考えています。
乳がんと診断され、将来に不安を感じる方々が多くおられます。手術までの短い期間に乳房変形や乳房再建のことまで考える余裕がないのが現状です。そういった方々へのお手伝いができれば幸いです。

武田診療所(免疫・遺伝子クリニック) 武田病院グループ免疫遺伝子医療部門 センター長 古倉 聡

免疫療法には、どのような方法がありますか?

がんの免疫療法は、大きく分けて、ワクチン療法と免疫細胞療法があります。
ワクチン療法には、自家がんワクチン、ペプチドワクチン、樹状細胞ワクチンなどがあります。私たちは、自家がんワクチン療法を行っています。まず、自家がんワクチンというのは、手術により摘出した患者さんのがん組織(ホルマリン固定状態でもパラフィン包埋状態でも可能)から、がん抗原(既知の抗原も未知の抗原もすべて含まれている)を取り出してワクチンを作成し、2週間ごとに3回皮内投与します。これにより、がん細胞特異的なキラーTリンパ球が、投与開始から約8週目には誘導されてきます。最も理想的な使い方は、術後がん再発の予防です。また、治療ワクチン(術後の再発がんに対して用いる)としても使いますが、この場合は、比較的発育の緩やかながん腫に特に有効です。あとで述べる、免疫細胞療法や免疫チェックポイント阻害剤との併用を行えば、より強力な治療になります。ペプチドワクチンや樹状細胞ワクチンは、がん抗原として、既知のがん抗原を合成して用いますが、治療に使うがん抗原の数は、2~4個くらいです。がん抗原の数が自家がんワクチンの場合には無数にありますから、ワクチンとしては、これが最もすぐれたワクチンといえます。

一方、免疫細胞療法とは、どのような治療法ですか?

私たちのところでは、タカラバイオと共同研究開発した、ナイーブT細胞を多数含んだ、ナイーブT細胞療法を行っています。ナイーブT細胞は、まだ成熟しきれていないTリンパ球のことで、その特徴として、(1)体内に戻してからもさらに増え続ける、(2)抗がん作用が強い、(3)生体内のがんを見付けてそこに集まる、などの3つの強力な特徴があります。また、患者さんによっては、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)を拡大培養して、体内に戻すことも行っています。私たちの開発した培養NK細胞は、80%以上の高純度で、培養前のNK細胞に比べて、3~4倍の抗がん活性があります。

最近、免疫チェックポイント阻害剤が注目されていますが、これはどのような薬で、この薬も使われていますか?

がん免疫療法は、がんが存在する局所で、複雑な戦いをしています。がん細胞の目印となる「がん抗原」を攻撃するのは、キラーTリンパ球ですが、この攻撃がなかなか容易ではありません。なぜなら、がん細胞も自分を攻撃されまいとして、1)表面にある「がん抗原」が見つかりにくいような工夫をします。さらに、2)がん細胞自身を攻撃してくるキラーTリンパ球の攻撃にブレーキをかけ、こうした免疫の攻撃をかわそうとする新たな蛋白質を作り出してしまうのです。
このキラーTリンパ球の働きにブレーキをかけてしまうのが、がん細胞の表面に現れる「PD-L1」という蛋白質です。がん細胞の表面に「PD-L1」という蛋白質が現れてしまうと、がん細胞を攻撃しようと突進してきたキラーTリンパ球上に備わったもう一つの蛋白質である「PD-1」と結合してしまい、「PD-L1」と「PD-1」が結合したキラーTリンパ球は、その攻撃力が弱まってしまいます。そこで元々キラーTリンパ球の表面に備わった「PD-1」というたんぱく質に、あらかじめ別の物質を結合させてしまえば、がん細胞表面のブレーキ物質「PD-L1」とは結合できなくなり、「PD-L1」による邪魔を防げるだろうと考え、開発されたのが免疫チェックポイント阻害剤(抗PD-1抗体)です。この免疫チェックポイント阻害剤よってキラーTリンパ球のがん細胞攻撃にブレーキがかからなくなり、がん細胞を効率的に殺すことができる様になりました。私たちは、現在、この免疫チェックポイント阻害剤と免疫療法をそれぞれの患者さんに最も適切なパターンを選び併用しております。

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