武田病院グループは、患者さんの体に負担の少ない最新・最先端の治療を目指して、研鑽を続けています。 「めでぃかるとぴっく」では、最近話題の病気や治療法など、さまざまなトピックに焦点を当て、武田病院グループの各科の先生にお話を伺います。
※医師やスタッフの肩書き/氏名は掲載時点のものであり、現在は変わっている可能性があります。
医仁会武田総合病院 肥満外科
岩田 辰吾 先生
■ 生命予後に悪い肥満の放置
肥満症の中でも、Body Mass Index(BMI)(図1)が35以上の方は、2型糖尿病や高血圧症、脂質異常症、脂肪肝、変形性膝関節症、腰痛症、睡眠時無呼吸症候群などを合併しておられ、放置しておくと生命予後が悪くなり、失明、透析療法、下肢切断などQOL(生活の質)が低下します。
日本人は欧米人に比べて肥満度が低い割には、肥満が招く様々な合併が起きやすい、メタボリックシンドローム(内臓脂肪肥満症候群)のタイプが多い民族で、上記の合併以外にも、脳血管障害や循環器、精神疾患、悪性腫瘍などの発症との関係も指摘されています。
■ 急増する日本の肥満
世界的に有名な医学雑誌『ランセット』によると、世界の肥満人口は1980年には約8億6000万人でしたが、2013年には21億人と大幅に増加しています。2010年には肥満が原因で340万人が亡くなっていると報告されています。日本では成人男性の約30%、成人女性の約18%が肥満で、予備軍を含めると2000万人を超えると言われています。BMI35以上の日本人は60万人以上に上り、治療が必要な肥満症の方は男性5%、女性は3%と報告されています。
■ 肥満手術の意義
肥満手術は、重度肥満が原因であったり、重度肥満に伴う病態により生じている健康障害(重度肥満の合併症)や生命の危険に対して、これを防止しあるいは軽減する治療のひとつとして行うものです。胃の容量を減らすことで食事摂取量を減らして減量効果を期待するだけではなく、切除される胃の部分には食欲刺激ホルモンであるグレリンを分泌する細胞が集中しているため、術後の食欲抑制効果も期待できます。肥満に伴う合併症である、糖尿病などの健康障害の発症・増悪の危険性の改善効果が期待できます。
■ 内科的治療から開始
治療については、最初は内科的治療を優先します。食事療法、運動療法、薬物療法を行います。しかし、これで肥満が改善できればいいのですが、現状維持がなかなかうまくいかず、リバウンドしてしまうことが多いのが肥満症の特徴です。対症療法を半年以上続けても、なかなか改善に結びつかない方で、一度でもBMIが35以上になったかBMIが32以上でも肥満関連疾患を合併している場合に、腹腔鏡下スリーブ(袖)状胃切除術(以下スリーブ手術)を選ぶことになります。
■ 患者負担少なく効果の高いスリーブ手術
スリーブ手術は、胃を小さくしてバナナくらいの大きさにして、食べることを制限することによって減量を図っていくものです(図2)。
胃の容量が約1/10に縮小しますので、食事摂取量が制限され減量を目指します。他の肥満手術に比較して、スリーブ手術の特徴は手術操作が単純明快なことが第一で、栄養吸収機能障害がほとんどありません。こういった利点とともに肥満治療効果が良いことも挙げられます。そのため、欧米人に比較して肥満の程度が軽い日本人には適していると言われています。以上のことから、他の手術療法が保険適用にならないのに、2014年4月、早々に保険適応が認められたのだと考えられます。今、日本で一番注目されている手術療法といっても過言ではありません。
■ 京都では武田総合病院がはじめてスリーブ手術を開始
スリーブ手術は近畿では滋賀医科大学などで行われていますが、京都府では2014年8月から初めて当院で実施しています。
5年前からスリーブ手術導入のための準備を開始しました。手術だけすればいいという問題ではなく、内科(糖尿病等)、栄養士、看護師、薬剤師、運動のためのリハビリ(作業療法士)との集学的チーム医療をしなければなりません。患者さんの日常生活の全てのサポートと、手術後の適切な減量を維持していくための様々な取り組みや管理が重要になってきます。
■ 臨床3例とも良好な経過たどる
上腹部に腹腔鏡を挿入する小さな穴(5~12ミリ)を5カ所つくり、最初に胃大弯から大網を切離し、胃大弯側を切除し体外へ取り出した後、創を縫合して塞ぎます。
当院ではこれまでに3例実施。1症例は、体重130キロ、BMI41。2型糖尿病、非アルコール性脂肪肝、脂質異常症、睡眠時無呼吸症候群の合併がありました。当初は内科的治療で減量に取り組んでいましたが、少し良くなってはリバウンドを繰り返したため、スリーブ手術を行いました。手術後4週間で90キロまで減量に成功。2型糖尿病、非アルコール性脂肪肝、脂質異常症、睡眠時無呼吸症候群の合併症も改善し、治療薬も中止しました。退院後、仕事に復帰し、ジムに通って運動にも取り組んでおられ、「鼾をかかなくなった。目覚めも良くなった。体も軽くなって、自分から楽しんで運動に取り組んでいます」と話しておられます。
■術後管理も万全
術後の食事の仕方が大切になります。食生活をきっちり持続していただけるように指導を徹底します。内科的治療の場合、本人の意思に任せることが多く、継続性がなかなか難しいのです。
食事療法と同時に運動療法も並行して指導。また、ソーシャルワーカーも関わって指導。食事も1年後には普通の内容となりますが、従前と同様な食生活に戻らないように留意します。
■手術までの流れ
手術の適用があるかどうか、手術後の管理に対応できるかどうかなど、複数のスタッフと面接して手術を決定していきます。術後は、翌日から水を飲んだり歩行も可能です。術後の時期によって食べて良い形態が決まっていますので、それに従って食事の管理をしていただきます。自宅で十分に水分や食事をとれることを確認してから、退院となります。通常は退院後に運動や仕事に制限がありませんので、むしろ積極的に社会復帰を目指し、体を動かし、食事が制限されるということで体重が減って、肥満に伴う合併症も改善していきます。
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