アスニー京都で開催される、武田病院グループのスタッフによる健康講座です。
※医師やスタッフの肩書き/氏名は掲載時点のものであり、現在は変わっている可能性があります。
肝炎について
医仁会武田総合病院 消化器センター センター長 松山 希一 氏
■肝炎の症状
肝炎とは、肝臓に何らかの原因で炎症が起こることによって、肝臓の細胞が破壊されて働きが悪くなる状態をいいます。一番多い症状としては、全身倦怠で、ほかにも発熱、食欲不振、まれに嘔気・嘔吐、また体が黄色くなる黄疸という症状が出てきます。
■肝炎の原因
ウイルスによる肝炎が一番多いですが、それ以外にもアルコールや、薬の副作用などでも肝炎を起こしたりします。最近よくいわれている脂肪肝は、栄養分が肝臓に溜まりすぎて破綻してしまう状態です。今までは脂肪肝で単に炎症が起こるだけだといわれていましたが、NASH(非アルコール性脂肪性肝炎)という状態になると、脂肪肝の中のごく一部の人が肝硬変になって肝がんを発症することもあります。そのほかに、PBC(自己免疫性肝炎)といって、非常に少なく珍しい病気があります。またリウマチなどと同じ自己免疫性疾患に属しますが、ある日突然、肝臓を自ら攻撃してしまうのが自己免疫性肝炎という病気もあります。また、肝臓の腫瘍、結石などによって胆汁の流れが悪くなり肝炎を起こすことがあります。
■代表的なウイルス肝炎
●B型肝炎
B型肝炎は、B型肝炎ウイルスに感染している人の血液や体液から感染します。感染経路は、出産時のB型肝炎ウイルス感染者の母親から子どもへ感染する垂直感染と、それ以外の水平感染があり、感染した時期や健康状態によって一過性感染で終わる場合と、6カ月以上感染が持続する持続感染とに分けられます。
・垂直感染
出産時に産道でB型肝炎ウイルスに感染したお母さんの血液が赤ちゃんの体内に入ることによって起こります。最近では、母子感染の予防対策が行われているため、出産時でのB型肝炎ウイルス感染はほとんどありません。
・水平感染
主に性交渉による感染が多く、近年では若年者の感染も増えているといわれています。ほかにも、入れ墨や覚せい剤などの針の使い回しなどによる感染者が増加しています。最近では滅多にありませんが、輸血や予防摂取での注射器の使い回しや、医療者における針刺し事故などもありましたが、予防対策が取られているため、現在ではほとんどありません。
思春期以降にB型肝炎ウイルスに感染した場合、多くの場合は一過性で終わり、急性肝炎を起こすことはありますが、慢性化することはありません。ただ、急性肝炎を発症した人の中には、劇症肝炎を発症して死亡する例も報告されています。また、最近では、ジェノタイプAによる急性肝炎が急増しており、10〜15%は慢性肝炎に移行するという報告があります。
出産時や乳幼児に感染した場合、持続感染者(キャリア)になる場合があります。思春期以降になると、免疫機能が発達するため、ウイルスを排除しようとする働きが生じます。その際、10〜15%の人が慢性肝炎や肝硬変を起こし、肝がんを発症する人も出てきます。
●治療方法
○抗ウイルス療法
・インターフェロン療法(注射薬)
インターフェロンは、肝炎ウイルスの増殖を抑制する治療法で、35歳未満が対象といわれています。インターフェロンの投与により、発熱するなどの副作用が出ることもあります。有効率は30%と正直あまり効果がないといわれています。
・核酸アナログ製剤療法(内服薬)
肝炎ウイルスの増殖を抑制する治療法で、有効率は80%以上といわれています。ただ、内服薬を一生飲み続けなくてはならないため、35歳以上の人が対象となっています。
○肝臓庇護療法
肝機能を正常化させ、肝炎の進行を抑える治療法で、内服薬や注射薬などがあります。
B型肝炎はウイルスを体から完全に排除することが難しいため、ウイルスの量を減少させることと肝炎を沈静化させることがとても重要になってきます。また、若年者では、自然とセロコンバージョンといって、HBe抗原が陽性からHBe抗原が陰性かつHBe抗体が陽性になる人もいますが、一部の人は肝炎が持続し、肝硬変や肝がんに進展することがあるので、専門医に相談して、きちんとした治療方針を決めてもらうことが大事です。
●C型肝炎
C型肝炎ウイルスに感染すると、約70%の人が持続感染となり、慢性肝炎や肝硬変、肝がんへと進行しますが、自覚症状が無いことが多く、自分がC型肝炎に感染していることを知らない人も多いです。そのため、治療が遅れてしまうことがあります。C型肝炎の主な感染は血液を介して感染することから、輸血や血液製剤、また注射針の使い回しなどが主な感染原因でした。現在は予防対策が採られているため、このような感染はほとんど起こりませんが、ピアスや入れ墨、覚せい剤などの回し打ちなどによって感染するケースも多いといわれています。肝がんの原因の80%はC型肝炎といわれるほど、肝がんを発症するリスクが高いといわれています。ですので、90年代以前に大きな手術を受けたことがある方や血液製剤を投与されたことがある方は、一度検査を受けることをお勧めします。
●検査
まず、C型肝炎ウイルスに感染しているかどうかを調べるHCV抗体検査をします。HCV抗体が陽性の場合、HCV-RNAとセロタイプを取り出し、どのタイプのウイルスがいるのか、また今すぐに治療が必要かどうかを調べます。HCV抗体は、抗体ができるまで少し時間がかかるため、感染当初は抗体が出ない可能性があります。1年ぐらい経ってからもう一度調べるとほぼ確実にわかります。それ以外は、エコー(超音波検査)や、CT、MRIなどで肝臓の形、腫瘍やがん、炎症の有無などを見て治療方針を立てます。また、血液検査などでも調べることがあります。
●治療
・インターフェロン治療
肝細胞に直接働いて、ウイルスの増殖を防ぐと考えられていて、C型肝炎ウイルスを体内から排除することを目的とした治療です。肝硬変や肝がんなどに進展するのを大幅に少なくすることができます。注射剤ですが、最近では、抗ウイルス薬(飲み薬)と組み合わせて使う場合もあります。2011年にテラプレビルという新薬が出たことによって劇的に治癒率が上がり、テラプレビル、リバビリン、ペグインターフェロンの三剤併用することで、今までほとんど効かないといわれていた人でも効くようになってきました。去年からはさらにシメプレビルという薬が出てきて、テラプレビルより副作用の少ない新薬です。
・進展予防療法
インターフェロンが使えない患者さんやインターフェロンでウイルスが排除できなかった患者さんを対象に、肝臓の炎症を抑えて肝硬変や肝がんへの進展を止める、または遅らせる方法です。
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