アスニー京都で開催される、武田病院グループのスタッフによる健康講座です。
※医師やスタッフの肩書き/氏名は掲載時点のものであり、現在は変わっている可能性があります。
実践!認知症を防ぐための運動のススメ
医仁会武田総合病院 疾病予防センター 科長代理 黒瀬 聖司 氏
■物忘れと認知症の違い
(1)物忘れの自覚がある or ない
(2)経験自体を覚えている or 忘れている
(3)物忘れの程度が進行していない or 進行している
(4)理解力・判断力に支障がない or ある
(5)生活に支障がない or ある
「最近、物忘れがひどいなぁ」と思っても、経験自体を覚えていれば大丈夫です。認知症は、物忘れの自覚が無くなってきます。例えば「今朝ご飯を食べましたか、何を食べましたか」と聞かれたときに、内容は出てこなくても朝ご飯を食べたという自覚がある方は物忘れです。認知症は、朝ご飯を食べたという経験が抜け落ちてしまいます。過去の記憶がある程度つながっていて、その一部が思い出せなくなるのが物忘れ、経験自体が抜けてしまうのが認知症です。物忘れの程度が進行していなければ問題ありませんが、進行していれば認知症の可能性が出てきます。ほかにも、物忘れは生活に支障がありませんが、認知症は、対人関係やお金の管理などの支障が出やすくなります。昔に比べて大声を出したり、怒りっぽくなった、物を盗まれたと言い始める、普段出来ていたことができなくなったなどの症状がある方は脳神経外科や神経内科を受診してみましょう。
■認知症の種類
1)脳血管性認知症...全体の20〜25%。脳梗塞や脳出血などの脳血管病変の合併から起こります。
2)アルツハイマー型認知症...全体の35〜40%。アミロイド物質などの脳への沈着による脳の器質的な障害によって起こります。
3)2つの合併やその他...合併30%、その他10%。生活習慣病(肥満、高血圧、脂質異常症、糖尿病など)や喫煙も認知症の発症に関与します。
■認知症になりやすい危険因子
*高血圧や脂質異常症などの生活習慣病
*喫煙や多量の飲酒
*転倒による骨折や頭部の打撲
*不活発な生活
*少食による低栄養
*塩分や肉類の多い食事
生活習慣病の予防、転倒予防などの介護予防が認知症の予防になります。また、スポーツなどの運動習慣のある方は、認知症を発症しにくいと言われています。運動が認知症の発症を予防できる理由として、運動による脳血流の増大、海馬の容量が増加、血管新生、脳由来の神経栄養因子の増加などが考えられており、週3回以上の早歩きの習慣がある方は認知症の発症を半分に抑えられることが報告されています。運動習慣がない方は、会話ができるぐらいの運動から始め、10分ずつ増やしてみましょう。動くことに慣れてきたら、早歩きをする、卓球などのスポーツ種目を取り入れる、太極拳やエアロビクスなどの音楽に合わせて動くこともオススメです。また、家の中でも頭の体操ができ、「グーパー体操」のような左右対称の動きをすること、「後出しじゃんけん」のような目で見て考えて動かすことも有用です。
■脳の老化を防ぐ抗酸化作用
脳の老化を防ぐには、ビタミンEやビタミンCの摂取も大切です。ビタミンEは、玄米などの穀物や、植物油、木の実、緑黄色野菜などに多く含まれています。一方、ビタミンCは、みかん・いちご・レモンなどの果物や、イモ類があります。イモやカボチャは栄養素分類では糖質に分類されますので、糖尿病の方が食べ過ぎてしまうと血糖値が上がりますので要注意です。特に食事制限がない方は、バランス良く食べることを意識して欲しいと思います。また、魚(特に背の青い魚)にはEPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)が多く含まれており、認知症予防にも有用と言われています。
■料理や趣味で頭を活性化
料理をするということは、何を作るかを考え、食材を選びます。調理をして盛り付けをするなど五感を養い、脳が活性化されます。また、カラオケやラジオ体操、グランドゴルフ、ゲートボールなど趣味を持つことも大切だと思います。最も避けなければならないことは、家の中に引きこもってしまうことです。つまり、環境の変化がないことが認知症によくありません。家族や友人など誰かとふれあう、コミュニケーションを取るということが大切です。
■認知症が進む促進因子と予防
認知症を進める促進因子は、遺伝的な要因もありますが、大半は環境因子で経済的な要因、生活習慣病、加齢です。一方で、防御因子は教育、お薬、食事や適量のアルコール、知的活動や運動です。運動は、認知症予防の効果が何よりも証明されているもので、薬と同じぐらい予防できると言われています。ぜひ動く習慣を身につけてもらいたいと思います。運動を行い、生活習慣病の予防(歩行やサイクリングなどの有酸素運動)や転倒予防(筋力トレーニング)をすること自体が認知症の予防になります。
■認知症予防の10か条
1. 生きがい作って生涯現役
2. 強いストレスを避け、楽しい生活
3. 若いころからストレスの対処法をいくつも身につけておく
4. 1日30分の有酸素運動
5. 1日30分以内の昼寝の習慣
6. 野菜や果物を食べる
7. 魚・海藻を食べる
8. 赤ワインを飲む
9. 楽しい食卓
10.新たな仲間との創造的活動
(監修:福岡大学医学部神経内科教授 山田達夫、筑波大学臨床医学系精神神経科教授 朝田隆)
■「教育と教養」が大事
認知症予防には、「教育と教養」が大事です。「教育」と「教養」というと非常にハードルが高く感じられますが、
「教育=今日、行く」ところがある
「教養=今日、用」がある
出かける場所がある人、用がある人、それが一番大事なポイントです。いつまでも自分の足で動ける体で、自分らしい人生を最後まで全うしていただければ嬉しく思います。
Copyright © 2015 Takeda Hospital Group. All rights reserved.