アスニー京都で開催される、武田病院グループのスタッフによる健康講座です。
※医師やスタッフの肩書き/氏名は掲載時点のものであり、現在は変わっている可能性があります。
がんの最新薬物療法 ~ 腎がんを中心に ~
医仁会武田総合病院 泌尿器科 医長 寒野 徹
■腎がんが起こるわけ
がんは基本的に遺伝子に傷がつくことで起こるといわれています。腎がんも同じで、遺伝子に傷が付くことで起こるといわれています。腎がんは最近、フォン・ヒッペル・リンドウ(以下VHL)病の原因遺伝子に傷が付くことで、腎がんが起こることがわかってきています。VHL遺伝子は、がん抑制遺伝子といわれるもので、これに変異があって機能が不活化されるとがんができるということで、こういうものをがんの抑制遺伝子といいます。
●危険因子
腎がんの危険因子は一般的な成人病に関係するようなものが多く、肥満、喫煙、高血圧、飲酒、肉食、乳製品などもいわれています。ただ、いずれにしてもあまり強い危険因子ではありません。腎不全で血液透析をされる方は腎がんの発症率が非常に高く、約30倍ぐらいといわれています。また、腎がんは基本的には遺伝しませんが、ごくまれに家族性のものもあります。腎がん発症の推移は増加傾向にあります。その背景には、食生活の欧米化や高齢化、早期発見などがあります。腎がんは、全体のがんの2~3%ぐらい、60歳代の男性に多いといわれています。
●症状
腎がんの症状ですが、(1)血尿、(2)腎臓にがんが出来ている側の痛み、(3)腫瘤の触知 などが挙げられます。そのほかにも、病気が進行すれば全身倦怠感や体重減少、貧血、立ちくらみ、あるいは、発熱という症状があります。最近は、健診などで腎がんが早期発見される率が増えていますので、症状を来たすケースの方がまれだろうと思います。症状がないうちに健診などで見つかる偶発がんは、発見のタイミングによって生存率が大きく変わるため、やはり早期発見が大切です。
●診断
腎がんの診断はエコー検査が非常に有用です。エコー検査自体は被爆もありませんし、痛みもありません。腎臓のがんは、基本的に血流が非常に多いため、エコー検査で見つかりやすいのです。確定診断に関しては、CT検査が必須となります。造影剤を使って血流があるかどうかはっきり判断することができます。
■手術療法
方法は2つあって、一つは根治的腎摘除術といって腫瘍が出来ている側の腎臓の全摘手術を行います。一方、最近は、腎温存手術(腎部分切除術)といって、腫瘍のところだけを取る方法もあります。これは、比較的小さい腫瘍が対象ですが、腎臓の大部分を残すことができます。再発率は、全摘、部分摘出ともに大差ありません。早期腎がん、転移がない腎がんに関しては、開腹手術のほかに最近では腹腔鏡下手術も行われるようになりました。腹腔鏡での手術ですと傷が小さいですし、回復も早いです。また、アブレーションといって、病巣を取り除くのではなくて凍結させてしまう方法です。腎臓以外に転移が認められるがんについては、手術で根治できない場合、薬物治療を併用して行います。
■薬物療法
●がん治療薬の種類
1. 化学療法薬...抗がん剤。脱毛、嘔吐などの副作用がみられる。
2. ホルモン療法薬...乳がんや前立腺がんなどホルモンが存在する場所で増殖するがんを遮断する。
3. 免疫治療薬...がんと闘う免疫力を高めることでがんの活性化を抑える。
4. 分子標的薬...活性がんを抑えてがんの増殖を抑える。
◎免疫治療薬
インターフェロン
ウイルスに感染したときなどにそれを破壊するため、もともと体内で作り出されるたんぱく質の一種で、C型肝炎治療にも使用する。
インターロイキン2
リンパ球という免疫細胞を活性化してがん細胞と戦うための分子。
この二つの免疫療法の効果に関しては、薬が効くかどうかの奏効率は、10~20%程度で、たまに効かない場合があります。以前はこれらの薬しかありませんでしたし、転移の場所によって効きやすさは変わります。例えば、肺の転移にはインターフェロンの免疫療法がよく効きます。報告によっては40%ぐらい効くといわれていますし、一方、肝臓や頭の転移には効きにくいといわれています。免疫治療を受ける注意点は、免疫を活性化させるため、インフルエンザと似た症状になる方が多いです。発熱、倦怠感、関節痛などの症状が出るので、解熱剤を飲んでもらいながら免疫療法を行うことがあります。ただ、これらの症状も時間とともに改善する方も多いので、継続できるかどうかは個人差があります。
◎分子標的薬
がん細胞だけではなく正常な細胞まで攻撃してしまう抗がん剤に対し、分子標的薬は、がん細胞だけを攻撃して増殖を抑えることができる新薬です。日本で腎がんに対して使われているお薬は大きく分けて2種類あります。一つは、チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)といってがん細胞から伸びた血管を抑える働きがあります。もう一つは、mTOR阻害剤で、これは細胞が増殖したり生存したりするのに関係しているmTOR経路を抑える薬です。腎がんは、ほかのがん種よりも非常に血管が多いのが特徴で、固形がんの中では分子標的薬がよく効くがん種です。腎がんの治療薬で一番よく使われるスニチニブは、今までインターフェロン薬では10%ぐらいしか効かなかったところ、30%強効きます。現在、治療薬が何種類も出てきているので、患者さんに合わせて考えていく必要があると思います。
◎副作用
分子標的薬は、がんだけを抑えるため基本的には副作用は出ないはずなんですが、実際にはそうはいきません。血圧が上がったり、甲状腺機能がやられる、高脂血症になったりすることがありますが、これらをコントロールする薬を併用すれば問題ありません。また、血小板が下がったり、手足が赤くなる手足症候群など、薬で抑えたい部分以外に副作用が出ることもあります。そういう場合は、薬を減らしたり、ひどい場合には使用を中断する必要があります。
■まとめ
腎がんは健診などで早期発見されることが多く、根治できるパターンが増えてきています。手術に関しても、以前みたいにお腹を大きく切る方法は減少し、腹腔鏡での方法などできるだけ腎臓を温存することがなされています。薬物療法は、分子標的薬が出てきたおかげで治療成績が向上していますが、まだまだ使用には注意が必要です。
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