アスニー京都で開催される、武田病院グループのスタッフによる健康講座です。
※医師やスタッフの肩書き/氏名は掲載時点のものであり、現在は変わっている可能性があります。
子宮脱・膀胱子宮脱とは
医仁会武田総合病院 産婦人科 部長 伴 千秋
■子宮脱とは
子宮脱は、骨盤の中央にあった子宮が下垂し、膣口から子宮が脱出してしまう状態をいいます。軽度のものから重度のものまでさまざまで、子宮全体が体外に脱出してしまっているものを完全子宮脱、半分ぐらい体外に脱出しているものを不全子宮脱、膣口ギリギリの辺りまで子宮が下垂しているものを子宮下垂といいます。子宮脱は、単独で起こることもありますが、膀胱が膣の方へ膨らんでくる膀胱瘤を合併していることが非常に多く、ほかにも小腸脱、直腸瘤といったものを合併して起こることが非常に多いとされています。また、腹圧尿失禁という症状がかくれていることがあります。これは、くしゃみをしたときなどお腹に力が入るようなことをしたときに尿が少し漏れるという異常で、女性に多く、特に子供を産んだ後に起こりやすいので、軽度のものも含めますと2、3人に1人の方が腹圧尿失禁の症状があるといわれています。子宮脱がすすむと、下記のように尿が出にくくなりますので、腹圧尿失禁が軽くなることが多いのです。治療により子宮脱がなくなると腹圧尿失禁が再発しますので、治療の際には注意が必要です。
■自覚症状
子宮脱が起こると、膣入口、陰裂に何か丸いものに触れることで違和感を覚える方がいます。特にお風呂などで気付くことが一番多いです。丸くて少し硬いものが触る場合は子宮で、軟らかくて丸いものは膀胱です。また、子宮が下がって来る感じがするとか、股のところに何かが挟まって、気持ち悪くて外に出られないという方もいます。子宮脱がひどくなると、尿が出にくくなって、頻尿や尿失禁を起こしやすくなります。朝はそうでもなかったのに、夕方から症状がひどくなるという方もいますが、これは朝起きたときは腹圧がかからないからです。子宮脱が比較的軽いうちは、このように一日の中で症状に変化が見られるのが特徴です。子宮が体外に出たままの状態が続くと、子宮頸部が肥大したり、皮が剥けたりして、汚いおりものやひどい場合だと出血することもあります。
■原因
一番の大きな原因は、長期間腹圧を受け続けることによって、骨盤底の腹膜や結合組織、靭帯などが伸びてきます。最初は伸びても多少は戻りますが、そのうち戻る力がなくなってしまって子宮脱が起こるのではないかといわれていました。もう一つの大きな要因は、骨盤底の中にあるいろんな筋肉で、この中でも一番主要な肛門挙筋と呼ばれる筋肉がお産をすることによって破れてしまい、その隙間から子宮が降りてくるのが本当の原因と私は考えています。ただ、子宮脱はお産をすれば誰でもなるわけではありません。なりやすい体質も関係してきます。また、出産は非常に大きな要素で、出産を経験していない人は、出産を経験した人と比べてはるかに子宮脱になりにくいといわれています。ほかにも、60歳代以降に多いことから、年齢も関係してきます。
■治療
1)保存的治療
骨盤底筋体操
骨盤底筋を鍛える体操で、うまくトレーニングすれば、比較的軽症の子宮脱であれば症状の改善がみられたり、進みにくくなりますが、病状が進んだ場合には効果があまり期待できません。
リング
ドーナツリング状の器具で、膣内に挿入して子宮が下がって来るのを防止します。リング自体少し硬めで、効果は良好ではありますが、硬くて自分で着脱できない方が多いです。そのため、長期間挿入したままだと膣壁に傷がついたりして膣炎や膣潰瘍を起こします。
フェミクッション
最近インターネットなどでよく見られますが、昔の脱腸帯と同じようなものです。ただ、軽症の場合は効果が期待できますが、重唱の場合は効果不十分です。値段は少し高めですが、通信販売限定なので、誰にも知られずに購入することができます。
2)手術的治療
メッシュ手術
最近インターネットなどで盛んに宣伝されている新しい手術法です。膣と膀胱、直腸との間に合成繊維で作られたメッシュを縫いつけることで、子宮、膀胱、直腸周囲の結合織を補強することができます。しかし、術後長期間安静が必要な上、再発が5~10%もあり、またメッシュが露出して再手術になる可能性もあります。
膣中央閉鎖術(ル・フォール手術)
膣の前と後ろの壁を奥の方から膣口近くまで縫い合わせる手術で、抵抗力が強くなり、ほとんど子宮が出てこなくなり、排尿障害がある人も治ります。膣を全部塞いでしまうと、子宮からの分泌物が排出できなくなるので両端を縫わずに少しだけ開けておきます。体の負担が非常に少なく、比較的軽い麻酔でできます。性交渉ができなくなる以外に合併症もほとんど無く、再発率も5%未満と低いです。
膣式子宮全摘術、膣前壁形成、肛門挙筋縫合会陰形成
腹膜、子宮周囲の靭帯や結合織、膀胱や直腸周囲の筋膜、肛門挙筋などの形成や再建を行っていく手術です。若い人には比較的いい方法です。ただし、子宮全摘を含む方法のため、将来子供を希望する人には適しません。
■子宮脱と腹圧尿失禁
尿は膀胱から尿道を通って体外に排出されますが、恥骨結合の裏側に丈夫な組織で支えられているのですが、お産や年齢などによってくっついている組織がだんだん緩み、不安定な状態になると腹圧尿失禁が起こります。子宮脱の方には、かなりの頻度で腹圧尿失禁があるとお話しましたが、子宮脱の手術をする前に、腹圧尿失禁が以前あったが今は無いのか、あるいは以前からずっとなかったのか、よく聞いてから手術方針を決める必要があります。
☆ケリー尿道形成術
子宮脱の術後、腹圧尿失禁の予防として行われる手術です。尿道の周りの恥骨結合に固定している組織を少し縫い縮めて固定することで尿失禁を防ぐことができます。しかしこの方法は、弱って伸びている組織を縮めるだけなので、永続的な効果が得られにくく、何年か経つとまた腹圧尿失禁が再発することもあります。
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