アスニー京都で開催される、武田病院グループのスタッフによる健康講座です。
※医師やスタッフの肩書き/氏名は掲載時点のものであり、現在は変わっている可能性があります。
がん検診のすすめ
医仁会武田総合病院 消化器センター 医長 藤永 陽介
■死亡率の1位はガン
がんなどの悪性新生物、心筋梗塞を含む心疾患、脳卒中などの脳血管疾患が三大疾病といわれています。この中でも、悪性腫瘍による死亡率が非常に高い割合を占めていることから、厚生労働省が中心となってがん検診を受けて早期発見早期治療を心がけようという動きがみられます。主な部位別死亡率は、男性の場合、1位肺がん、2位胃がん、3位大腸がんで、女性の場合は、1位大腸がん、2位肺がん、3位胃がんという順番です。がん検診などでは特に多い肺がん、胃がん、大腸がんの早期発見のために検査が行われています。
■胃がん
◆症状
胃がんの症状として、食欲が落ちたり、いつまでたっても胃の中から食べ物が流れず、お腹が張った感じがしたり、胸焼け、嘔吐といった症状が出やすくなったりすることが挙げられます。また、上腹部の痛み、吐血、下血がみられることもあります。さらに進行すると、体重減少という症状が出ることもあります。ただし、こういった症状が出るのは、ある程度進行したがんの場合で、特に早期がんの場合では、これらの症状が全くみられないことも珍しくありません。
◆胃がん検診
胃のX線検査(バリウム検査)
前日の夜10時以降は食べたり飲んだりせずに病院に来てもらい、検査当日の朝、胃の動きを抑える神経剤や検査を楽に行うための鎮静剤を投与し、その後胃を膨らませる発泡剤と造影剤のバリウムを飲みます。水平になったり垂直になったりさまざまな角度に動く検査台でいろいろな角度から胃を撮影し観察します。
上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)
前日の夜10時以降は食べ物飲み物を控えていただき、当日胃の中の泡を消す消泡剤、咽頭麻酔をして、胃の動きを止める神経剤や検査を楽にするための鎮静剤を投与した後、ベッドに横になってもらってカメラを飲んでもらい、胃の中に出来物がないか直接見る検査です。
◆治療
内視鏡的粘膜切除(EMR)
病巣の下の粘膜下層に生理食塩水あるいはグリセリンなどの液体を局所注射し、病変を盛り上がった形にします。そこにスネアという金属でできた輪をひっかけて電気メスと少しずつ輪を絞ります。絞ったところで高周波電流を通電して焼き切り、切り取ったがん組織だけを回収します。外科手術とは違い、手術痕が小さく済むほか、胃のほとんどが残るため、体への負担も軽くて済みます。ただ、この治療法では2センチぐらいの早期がんが限度といわれています。
内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)
がんの腫瘍を確実に切り取るために、腫瘍の周りにマーキングをし、腫瘍がある部分の下に食塩水やグリセリンなどの液体を注射して盛り上げ、正常な組織とがんの間に距離を作り、マーキングの外側に電気メスで切れ込みを入れ、マーキング部分を残さないように少しずつ切っていきます。この切れ込みから粘膜下層から少しずつ剥がしていきます。先ほどの粘膜切除術に比べると少し時間はかかりますが、範囲の広い早期がんにも対応できるようになりました。
開腹手術
2センチ以上の進行がんやほか臓器への転移が認められるがんについては、開腹手術での治療が適用となります。
■大腸がん
◆症状
大腸がんは正常な大腸粘膜よりも出血しやすいため、血便が出たり、あるいは大腸の通りが悪くなることによって便秘や下痢を繰り返す便通異常、あるいは狭いところを通るために便が細くなるといった症状が見られることがあります。また、お腹が張ったり、腹痛が出たりもしますが、小さながんであれば大腸は普通に機能するため、自覚症状が全くないことも珍しくありません。
◆大腸がん検査
便潜血検査
検査方法は、便の表面を容器のふたについているスティックの先端でこすって便を回収し、それをまた容器に入れて持っていきます。がんは組織が非常にもろく簡単に出血してしまうため、便に付着した目に見えない微量の血液であってもこの検査で判定することができます。ただし、がんであっても常に出血しているとは限らないため、検査に引っかからないことがあります。
下部消化管内視鏡検査(大腸カメラ)
大体検査前日の午後7時までに食事を取ってもらい、下剤を飲んでもらって大腸内の便を減らしてもらいます。当日は午前中に病院へ来てもらい、腸管洗浄液という水薬を午前中いっぱいかけてゆっくり飲んでもらって、腸内に残っている便を徹底的に出した上で午後から検査が開始されます。
■胃がんとピロリ菌
胃がんの原因の一つとして、ヘリコバクター・ピロリ菌の存在が挙げられます。胃の中は非常に強い酸性の環境ですが、このピロリ菌は、ウレアーゼという酵素を分泌し、自らの周りに尿素を作り出してアルカリ性のアンモニアの壁を作り出します。このアルカリ性の壁によって強い胃酸にも適応できるのです。ピロリ菌が胃の中にいったん住み着くと、ピロリ菌が作り出したアンモニアや尿素によって胃の粘膜が刺激されます。そうすると慢性的な炎症が起こり、胃潰瘍やがんが発生しやすくなります。
◆ピロリ菌検査
(1)内視鏡を使う場合
直接胃の粘膜を取って来て、ピロリ菌が持っているウレアーゼなどに反応があるかないかを見ます。あるいは取ってきた粘膜を直接顕微鏡で見て、ピロリ菌が含まれていないかどうかを見ます。また、ピロリ菌にとっての良い環境を整えることによってピロリ菌が増えてこないかを判定する培養検査があります。
(2)内視鏡を使わない場合
血液検査で知ることができるヘリコバクターピロリ抗体検査や胃から出る尿素を測定する呼気検査、便中でピロリ菌に関する反応がないかどうかを見る検査などがあります。また、ピロリ菌による胃の影響を調べる検査としてもペプシノゲン検査が挙げられます。
■がん検診の有効利用を
がん患者さんの発見経路のアンケート調査を国立がん研究センターが実施したところ、がん検診でがんが見つかり現在治療中の人はわずか7.7%という結果が出ています。そのほか、がんの発見を目的としていないような健康診断あるいは人間ドック、職場の検診などで発見された人が8.0%、一番多かったのが、糖尿病や高血圧などほかの病気で定期的に病院にかかっていて、そこで勧められた検査で見つかったという例でした。日本の場合、残念ながらがん検診を受ける方がまだまだ少ないといわれています。しかし、がん検診の内容を正しく理解できれば、今以上にもっとがんの発見率が上がり、有効な治療ができるのではないかと思われます。がん検診を有効に利用し、検診で異常が記された場合、速やかに病院で治療を受けてください。
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