アスニー京都で開催される、武田病院グループのスタッフによる健康講座です。
※医師やスタッフの肩書き/氏名は掲載時点のものであり、現在は変わっている可能性があります。
慢性腎臓病とその治療法について
医仁会武田総合病院 腎・透析科 部長 宇佐美 勝正
■慢性腎臓病(CKD=Chronic Kidney Disease)
我が国の透析患者さんの数は右肩上がりに上がってきています。2007年ぐらいで少し伸びがマシになってきており、慢性腎臓病の保存療法普及のおかげではないかといわれています。慢性腎臓病は、放置しておくと透析になるから大変なんですね。早期に発見してできるだけ早く治療を開始することで、進行を遅らせることはできます。でも症状が出る頃は手遅れの場合が多く、そうなればどんな内科的治療をしても有効ではなく透析せざるを得なくなります。そういう特徴をもった病気ですので、できるだけ知識を持って病気に対処することです。
●慢性腎臓病の定義
1)尿異常、画像診断、血液検査など尿たんぱくがおりている
2)GFR(糸球体ろ過量)>60ml/min/1.73平方メートル
GFRとは、血液中の老廃物をろ過して尿に出す、いわゆる腎臓の浄化機能のことです。これは特別な検査をしなくても、一般的な血液検査で尿毒素の数値を見ることでわかります。もう一つ、尿たんぱくは尿検査でわかります。たんぱくは体にとって非常に大事な物質ですから、通常尿に出ることはありません。尿たんぱくの数値が高いということは、腎臓のどこかに損傷があって漏れ出ているということになります。
●症状チェック項目
*健康診断の尿検査で異常を指摘されたことがある
*おしっこの色が変だと感じたことがある
*おしっこが泡立っていると感じたことがある
*夜間に何回もトイレにいく
*顔色が悪いといわれたことがある
*疲れやすい、疲れが抜けない、息切れがする
*靴や指輪がきつくなった、むくみを感じる
■診断の目安
クレアチニン値
血液検査の項目にあるクレアチニンという項目が目安となります。クレアチニンとは、体の筋肉で利用された老廃物の一つで、通常は0~1以下の値なのですが、腎臓の機能が悪くなってくると徐々に上がってきます。
尿素窒素(BUN)
食べたもののたんぱくのカスである尿素窒素は、腎臓の機能が正常に働いていると尿中に出ます。ところが、腎臓の機能が低下していると出なくなります。正常値は8ー20ですが、腎臓の機能が悪いとどんどん上がってきます。
尿酸
痛風の上がり方とは違いますが、腎臓の機能が悪いと尿酸を外に出せなくなるため、尿酸値が上がってきます。
カリウム
野菜や果物に含まれているカリウムも腎臓の機能が悪いと排出できなくなり、あまりにも上がると心臓が止まってしまいます。突然死の原因になることもあります。
むくみ
腎臓が悪くなっておしっこが出にくくなったり、尿中に尿たんぱくが認められるとむくみが出始めます。ひどいときには体重が10~15キロ増えることがあります。特に胸部に水が溜まり海や川で溺れたような感じになるほど呼吸苦がひどい場合は、一刻も早く透析をして水を抜かないと死に至ります。
さまざまな症状
尿毒症が出ている場合、吐き気、イライラ、頭痛、めまい、食欲不振などの症状が認められます。放っておくと、むくみ、尿量の減少、呼吸困難などを起こし、救急車で病院へ搬送されることになります。
■腎臓病の診断と腎機能の評価
(1) 蓄尿検査
蓄尿検査では、
1)尿量がわかる
2)24時間クレアチニンクリアランスでどれぐらい腎機能が残っているかわかる
3)総尿たんぱく量で腎臓の損傷の程度がわかる
4)食塩摂取量、たんぱく摂取量、食事内容がわかる
これだけのことがわかります。
(2)画像による形態検査
レントゲンやCTなどを使って見ます。腎臓の萎縮が認められないか、腎が腫大していないかなどを見ます。
(3)VOLUME評価
これは体液量の評価で、レントゲンとエコーで検査をします。
■治療
腎臓の保存療法で一番大切なことは、尿たんぱくを減らすことです。尿たんぱくを減らすには、血圧を下げることが大事なのです。
(1)食事療法
食塩を制限することで、血圧をかなり下げることができます。
(2)降圧(130/88 未満)
腎臓内の血管に圧力がかかることで尿中に尿たんぱくが出ることから、血圧を下げることがとても大切です。降圧剤を投与したりして血圧を130/80mmdl未満に下げます。
(3)ACE-1とARB
ACE-1とARBは、腎臓内の血管の出口を広げる血圧の薬で、心臓や腎臓の保護効果がある薬です。尿たんぱくを減少させる効果があると言われています。これだけでは血圧が下がらない場合、体全体の血圧が高い場合も尿たんぱくが多く出るはずなので、体全体の血圧を下げるような追加療法をします。
(4)対症療法
ます。ほかにも、慢性腎不全になると体がどうしても酸性に傾くので体がアルカリ性になるようにします。また、尿たんぱくが出ていて高血圧の人は、卒中関係の病気になりやすいので、血をサラサラにする薬を投与する場合もあります。
■病識をもつことが大事
よく患者さんに「治療で一番大事なことは何ですか」と聞かれます。一番大事なことは病識を持つことです。悪化の早い人は自分が病気であるという意識を持っていません。腎臓病の初期症状は乏しく、体調に異変が出た時点ではだいぶ進行していることが多いのです。体で感じるよりも頭で理解するようにしましょう。もう一つは、慢性腎臓病治療について知り、主体的に取り組むことです。例えば慢性腎臓病はできるだけ早期に見つけて早期に治療し、できるだけ透析にならないようにしましょうとお話しますと、みなさん「透析になったら終わりなんやな」と認識してしまいます。確かに煩わしさは増えますが、実際に透析をしながら働いていらっしゃる方もおられますし、内科的治療が有効でない腎臓病に対しては透析をした方がむしろ症状が緩和されて楽なのです。透析導入は決して終わりではありません。円滑に透析導入になってうまく管理をしてもらうことが大事で、腎臓病全体の知識を知ってほしいと思います。
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